35.仮のもの
シャルロットは大分クロヴィスに慣れ、恐ろしさもほとんど感じなくなっていた。
「父が戻るまで、こちらにおいていただいてもよろしいですか」
「ああ、もちろんだ。レオンスは承知しないだろうが。君を連れてきたことを知れば、すぐに君を連れ戻しにここにやってくるはずだ」
クロヴィスは眉をひそめる。
「このところレオンスの様子がおかしく、君と連絡がつかなかったから、彼の留守に屋敷に乗り込んだ。まさか閉じ込められているとは……。君さえよければ、この家にずっといてくれて構わない」
「それは申し訳ないですし、数日で帰りますわ」
「何も申し訳なく思うことなどない。両親は僕と君の早い結婚を望んでいる。僕も結婚を早めたほうがいいと今は思っている」
「え?」
シャルロットは驚いた。彼は頬を染める。
「君さえよければそうしたい。君は魔法学院への入学をとりやめて。僕は学生結婚をする」
シャルロットはかぶりを振る。
「いえ……そんな、早すぎますわ」
婚約は破棄になると思っているシャルロットは動転した。
「もちろん急かすつもりはない」
クロヴィスはシャルロットの様子を見て、謝った。
「すまない、驚かせてしまった」
本当にびっくりしてしまった。
そのあとクロヴィスの予想どおり、兄が侯爵家にやってきた。
クロヴィスが門の外で、兄と会った。シャルロットは不安だった。クロヴィスはレオンスと親友だ。兄に言われ、シャルロットを引き渡すかもしれない。
しばらくして、話が終わったクロヴィスが客室に戻ってきた。
「レオンスは帰った」
連れ戻されるかもと思っていたシャルロットはほっとしつつ、クロヴィスに訊いた。
「兄は怒っていませんでしたか?」
すんなり帰ったとは思えなかった。シャルロットはレオンスに無断で家を出てきたし、部屋の扉は壊れた。きっと兄は怒っている。
クロヴィスは嘆息した。
「かなり怒っていた。だがしばらく君がここにいることを受け入れて帰った」
「そうですか……」
クロヴィスが説得してくれたのだろう。シャルロットは胸を撫でおろした。
しかし数日後家に戻ることに、今から躊躇いを覚えた。
※※※※※
シャルロットが家を出たのを知ったレオンスと、クロヴィスは外で会った。
屋敷に入れる気はなかった。
「クロヴィス、なぜ勝手に妹を連れ出した!?」
レオンスは掴みかかってきそうな勢いだ。クロヴィスは息を吸いこんで、レオンスに視線を返す。
「君がシャルロットを部屋に閉じ込めていたからだ」
クロヴィスはシャルロットに連絡を取ろうとした。
しかしこの一週間、まったく連絡がとれない。
ラヴォワ公爵は領地に行っているようだし、レオンスに言っても、妹は疲れて休んでいる、と自分を屋敷に入れようともしなかった。
(おかしい)
クロヴィスは、レオンスがいない隙に、ラヴォワ家の屋敷の中に強引に入った。
するとシャルロットが鍵のかかった部屋に閉じ込められていて、頭に血が上った。それで監禁されていた彼女を自分の家へと連れ帰ることにした。
(レオンスは何を考えている)
このところシャルロットは王宮で長く過ごしていたから、レオンスは焦れ、ラヴォワ公爵がいない今、シャルロットを傍に置くことにしたのだろう。
気持ちはわからないでもないが、少々やりすぎである。
両親はシャルロットがやってき、非常に喜んでいる。クロヴィスと同じ部屋が良いのでは、などと言う始末だ。
そんなわけにはいかないので、客室を用意した。
同室だと、レオンスがしたことと変わらない。
ラヴォワ公爵が領地にいる間、シャルロットに滞在してもらうことになったと両親には説明してある。レオンスの監禁については話していない。
シャルロットを取り戻しにきたレオンスは怒り心頭だった。
「閉じ込めていたわけではない。妹に不自由はないようにしていた」
「鍵をかけて、出られないようにしていただろう」
「君に関係はないだろ、クロヴィス」
「関係ある。僕は彼女と婚約している」
レオンスは頬をこわばらせる。
「クロヴィス、それはオレがシャルロットと結婚するまでの、仮の婚約だ」




