33.兄の部屋1
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(指輪が見つかったわ!)
シャルロットは屋敷に帰ったあと、指輪を人差し指と親指で摘まみ、矯めつ眇めつ、眺めた。指輪の内側に文字が刻み込まれている。文字は古代文字のようで読めない。願いが叶うというが、どのようにすれば叶うのか。
エドゥアールは何らかの方法をとる必要があると話していたが。
手の甲に、彼にキスをされたことを思い出せば、頬に熱がたまった。
するとノックの音が響いた。
「シャルロット」
兄の声だ。シャルロットは慌てて指輪を引き出しにしまった。
王宮でのことは一切話していない。指輪を見られれば怪しまれる。
扉まで行ってそれを開け、レオンスを部屋に通せば、兄はシャルロットの瞳をじっと見つめた。
「このところおまえは、ずっと王宮に行っているけれど、本当に神殿の仕事の手伝いをしに行っているの? 無理やり殿下と会わされているのでは?」
「仕事は今日で終了しましたわ。王宮にはもう行きません」
兄はシャルロットの手を取る。
「じゃ近頃、あまり一緒にいられなかったし、オレの部屋へおいで」
「え?」
「魔法学院に入学すれば会えなくなる。今のうちに、たくさん過ごしておこう」
「でも、まだ一年以上ありますのに」
「もう一年ほどしかないんだよ」
兄はシャルロットの指に指を絡める。
「父上が領地から戻られるまで、オレの部屋で暮らしてほしい」
今、父は領地で家を留守にしていた。
「お兄様の部屋……?」
「そうだ。勉強もしっかりみるよ」
それは助かるが……。兄の部屋で暮らすというのはいかがなものか。
シャルロットが躊躇いをみせると、兄は哀しげに睫を伏せた。
「オレの気力は今、下がっている。おまえが傍にいてくれると元気になると思う。だから来てくれないか?」
懇願されて、シャルロットは迷ったものの折れた。
レオンスが元気になるのなら。兄は、癒される愛猫の代わりとしてシャルロットを見ているのだ。
「わかりましたわ」
兄は嬉しそうに微笑する。シャルロットは、身の回りのものなどを兄の部屋へと移動させた。
広々としているので、二人でも狭苦しい感じはない。
けれど、寝台は一つしかなかった。
就寝の支度をしたあと、レオンスとともに寝台で眠ることになり、シャルロットは戸惑いが胸を占めた。
(二人で横になっても余裕のある広い寝台だけれど……)
隣で兄がシャルロットに声をかけた。
「シャルロット、こっちを向いてくれ。おまえの顔を見て眠りたいから」
シャルロットは兄のほうに向き直った。美しい瞳と目が合い、どきまぎしてしまったが兄と会話している間にいつの間にか眠りのなかに入っていた。
翌日から、食事も兄の部屋でとるようになった。
バスもトイレも、部屋に備えつけられたものを使うようにと言われ、家庭教師の授業も、稽古も休みをとらされた。
数日後シャルロットは兄に頼んだ。
「お兄様、わたくし、そろそろ自分の部屋に戻ろうと思うのですが……」
「駄目だよ」
レオンスは笑顔で一蹴した。
兄は勉強を教えてくれるけれども、シャルロットは護身術や武術の稽古もしたい。指輪に願いをかける方法も調べたかった。
しかしこの部屋から一歩も出られない。レオンスは自身が外出するときは、外から鍵をかけていくのだ。
(なんだか、お兄様の様子が変だわ)
今の兄は少々度を越している。シャルロットは猫ではないし、閉じ込められているようにも感じる。
一週間経ち、シャルロットは危機感を覚えた。
ここから出たい。しかしどこへ行けばいいのだろう。
自室に戻っても、兄が連れ戻そうとするはず。
注意してくれる父が帰ってくるまで、きっとこの状態が続く。
(なんとかしないと)
今日は兄が出掛けていた。
父が戻るまで友人の家に行こう。そう思い立ち、三階の部屋から、窓の外を見た。
寝台のシーツを破って結べばロープ代わりになるが、兄の部屋のものを傷つけるのは、はばかられた。父が不在の今、レオンスが家長で使用人は兄に従う。
逡巡し、脱出はひとまずやめた。
(お兄様が帰ってきたら、もう一度話してみればいいわ)




