32.妃に迎える
「ここを探しましょう!」
「シャルロット、俺はここに何度も来たが、指輪はなかったぞ」
「それでも念のため!」
シャルロットは彼とその空間を探しはじめた。
ここにある気がする。あまりにもゲームの重要シーンの煌めきと同じなので、その一点でシャルロットはあると思った。
──が、くまなく探したが見つからなかった。
「ないだろう?」
シャルロットは思い悩む。他にゲームで印象的だったのは……。
──魔法。主要キャラは皆、魔力を保持しているのだ。
指輪同様、魔法もいにしえから伝わるものである。
「エドゥアール様の魔力は『火』ですわよね?」
「そうだ」
指輪は王家に言い伝えられるもの。
王族の血を引く者の魔力が必要なのかもしれない。
シャルロットは一つの予測を立て、エドゥアールを仰いだ。
「エドゥアール様の魔力をここで解放してみてくださいませんか」
エドゥアールは眉を寄せる。
「ここで火がおこれば危険ではないか?」
「大丈夫です。わたくしも『火』の魔力を持ちますから」
彼は納得したように顎を引いた。
「なるほど。同じ魔力をぶつかり合わせれば、打ち消すことが可能だ」
「はい。万一、燃え広がりそうならわたくしも魔力を解放します」
エドゥアールは息を吸い込む。
「わかった」
彼は目を閉じ、片手を前に突き出した。すると赤い炎がザッと辺りを包み、金の星を照らした。
瞬間、目映いほどその場が輝いたと思うと、炎が消滅し、きらきら光る星の一つがぱりんと音を立てて弾けた。そこから金の指輪が現れ、空間に浮かび上がった。
「指輪……!」
光り輝くなか、エドゥアールは指輪を手に取った。
「金の指輪と言い伝えられている。これだ!」
「よかった! 見つかりましたわね!」
シャルロットはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
エドゥアールは微笑む。
「これは貴様にやる。だが願いを叶えるには、何らかの方法をとる必要があるぞ。このまま願いを言っても意味はない」
シャルロットは頷く。
「その方法も見つけますわ。指輪、本当にいただいて良いんですか?」
「ああ。貴様のものだ」
彼はシャルロットの左手の薬指に指輪をはめた。
シャルロットは目を瞬いた。
(……え……この位置って)
結婚指輪をはめる場所では?
彼は笑顔で告げた。
「いずれ俺は貴様を妃に迎える。だからこの位置だ」
シャルロットは呆気にとられる。
「わたくしには婚約者がいますわ」
「これからどうなるかわからないだろう」
彼は跪き、シャルロットの手に口付けを落とした。
きらきらと煌めく神秘的な空間で、王太子に跪かれてキスをされ、シャルロットは心臓が跳ねた。
彼は艶やかな瞳でシャルロットを見つめる。
「いずれ貴様は俺の妃になる」
「エドゥアール様の妃になったりしませんわ……!」
絡めとるような彼の視線から逃れるように目を逸らせた。彼は喉の奥でくつくつと笑う。
「指輪……ありがとうございます」
エドゥアールは頷き、もう一度手に口付けを落とした。
※※※※※
指輪が見つかり、喜んでいるシャルロットを見、エドゥアールは彼女をとてつもなく可愛く思った。
唇を奪いたいくらいだったが、彼女の手に口付けを落とすに留めた。
彼女を妻に迎えたい。
六歳のとき獣化したエドゥアールは、獣に変ずる己を恥じていた。
幼い頃、違和感を覚え、衝動に任せれば、金色の豹となって。
母はエドゥアールを気味悪く思い、地下洞窟に閉じ込めた。
次男のエドゥアールはどうでもよかったのだ。
父からも縁起が悪いと言われた。
だが母と兄が亡くなり、エドゥアールは地下洞窟から出され、王太子となった。
その当時のことは思い出したくない。よく思い出すことも、できずにいる。
地下洞窟に二度と足を踏む入れることはないと思っていた。
しかし指輪を探したがっているシャルロットを手伝うことにした。
シャルロットは獣化のことを、すごい能力で、天からの祝福だと言った。
素晴らしい力だと。
変わった娘である。元々シャルロットのことが気にはなってはいたが、強く惹かれ、自分のものにしたくなった。
婚約をしようとすれば、一足先に、デュティユー侯爵令息が彼女と婚約してしまった。
エドゥアールは苛立ち、シャルロットに無体な真似をしてしまった。
冷静になれば自身の言動を悔いた。
彼女は、今すぐ結婚するわけではない。
ただ今は、婚約したというだけ。まだ他の誰のものでもない。
いずれシャルロットはエドゥアールのもとに必ず嫁ぐことになる。




