30.地下洞窟1
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王太子を蹴った翌日。
シャルロットはエドゥアールから呼び出しをくらった。
一人で王宮に来るようにということだった。
シャルロットは気が遠くなった。
「シャルロットだけで行かせることはできません。オレも行きます」
「しかし今回も、殿下はシャルロット一人でとおっしゃっているのだよ、レオンス」
父が兄に言い聞かせる。シャルロットは覚悟を決めた。
「わたくし、一人で参りますわ。お兄様、心配なさらないで。ただ王宮に行くだけなんですもの。なんでもありませんわ」
「だがおまえは昨日……」
兄や父に心配を掛けられない。
「大丈夫です」
足がすくみそうになるが、逃げることはできない。
馬車に乗り、王宮を訪れると、エドゥアールの部屋に通された。
そこで冥王のように待ち構えていたエドゥアールとシャルロットは対峙した。
「昨日はやってくれたな?」
シャルロットは頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。突然のことに混乱してしまったのです」
まずシャルロットは謝罪をした。彼は王太子だ。
火に油を注ぐようなことはできない。ゲーム開始前に不幸ルートに入ってしまう……。
すると彼は横を向いた。
「貴様の婚約のことを知ったばかりで動揺し、俺も手荒な真似をしてしまった。あんなことをするつもりではなかった。すまない」
シャルロットは面食らった。彼から謝られるとは思っていなかったから。
強引な真似をされるか、処罰されるとばかり考えていた。
彼はシャルロットの前に立ち、どこかきまり悪そうにしていた。
「婚約話をラヴォワ家に持ち込もうとしていたのに、タッチの差で違う男が貴様と婚約したとわかってな。視察前に話をつけておけばよかったと悔しく思った」
シャルロットはクロヴィスと婚約しておいて幸いだったと内心思った。
クロヴィスはゲームで、悪役令嬢をむごく殺していて怖いが、真面目なひとだ。
エドゥアールと婚約となればゲーム内容に近づくし、今の状況のほうがまだいい。
「なぜわたくしと婚約をしようと?」
疑問に感じ尋ねてみると、彼はこちらに視線を流した。
「貴様を気に入ったからだ」
ゲームでは、高位貴族の令嬢だから、国王が息子の婚約者としてシャルロットを選んだのだが。
シャルロットは心底不可解に感じた。
「わたくしのどこをですの」
踏んだり、引っぱたいたり、蹴ったりしているのに……。
「変わっていて、おもしろいところだ」
エドゥアールは長椅子に腰を下ろし、長い脚を組む。
「貴様も座れ」
シャルロットは彼に促がされ、躊躇いつつ隣に座った。
彼は長椅子の背もたれに腕を置く。
「で。デュティユー侯爵令息といつ結婚することになっているんだ?」
「魔法学院卒業後です」
「ならばまだ時間はあるな」
エドゥアールは口角を上げる。
「昨日呼んだのは話があったからだ。地下洞窟のどこに指輪があるか、貴様が探したそうにしていたから、手伝おうと」
「えっ!?」
シャルロットは身を乗り出した。
「それは本当ですか!?」
「本当だ」
彼は眉を上げる。
「王宮の地下洞窟は実在する。願いが叶う指輪がそこにあると王家に言い伝えられている。どのように願えば叶うかは知らんし、指輪自体、本当にあるのかも謎だがな」
ゲームで彼が話していたとおりである。
「探したいです!」
シャルロットが意気込んで言えば、彼はふ、と微笑んだ。
「では行こうか。もし指輪が見つかれば貴様にやってもいい」
(やった!)
シャルロットはエドゥアールと部屋を出て、王宮の奥に建つ神殿まで行った。
大理石の円柱が等間隔に立つ、静謐な建物だ。
最奥には、飾り気のない一つの部屋があり、地下への階段が伸びていた。
こくんと息を呑んで、エドゥアールと階段を下りる。
地下は広々として鍾乳洞のようだ。周囲の岩が発光していて地下でも明るい。
「ここは神殿の一部になる。昔は巫女が祈りを捧げ、国の安寧を願っていたらしい。それは現在地上で行われていて、この地下洞窟は使われていない」
昔、巫女が祈りを捧げた空間。
深遠な地下洞窟を眺めるシャルロットに、エドゥアールが訊いた。
「しかし貴様の読んだ本は一体何だ? 地下洞窟のことはもちろん、指輪のことまで書かれてあるなど」




