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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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29.奇妙な危うさ




※※※※※




 レオンスはクロヴィスを連れて自室に入り、親友に尋ねた。


「殿下が自分で口にしたのか。シャルロットと婚約しようとしていたと」

「ああ。本人が話していた」


 レオンスは椅子に座り、額を押さえた。


「君に婚約してもらっていてよかった、クロヴィス」


 王太子が屋敷に来たときから嫌な予感がしていたのだが。

 やはり的中した。手を打っておいて幸いだった。


「殿下は殺したほうがいいのではないか」


 低く呟かれたクロヴィスの言葉に、レオンスは目を瞬く。


「なんだって? 殿下を殺す?」


 クロヴィスに視線をやると、彼は至極真剣な表情で首肯した。


「ああ。今日殿下は君の妹を連れて消えた。そのあとから彼女は気分が悪くなった。何かされたのかもしれない」

「シャルロットが、そう話したのか。何かされたと」

「いや。だが様子がおかしい」


 様子がおかしいのは、クロヴィスもである。

 レオンスは冷静に彼に話す。


「殺すわけにはいかない。エドゥアール・ミカエル・ファルードはこの国の王太子なんだ。シャルロットが何かされたと決まったわけでもない」


 クロヴィスは納得できかねるといったように、唇を真一文字に結ぶ。

 彼は日頃滅多に感情的になったりしないのだが、どうしたのだろうか。

 レオンスはクロヴィスを直視する。


「なぜそこまで殿下に怒りを覚え、シャルロットの心配をする、クロヴィス?」


 少々訝しく思い、レオンスはクロヴィスに尋ねた。


「それは……」


 クロヴィスはこめかみを動かす。


「……君の大切な妹だからに決まっている……。今日、君から任されてシャルロットと一緒にいたのに連れていかれ、僕は彼女を守れなかった。申し訳なく思っている」


 真面目で、責任感が強いクロヴィスらしかった。


「相手は王太子だし、責任を感じることはない」


 クロヴィスは拳を握りしめる。


「もし殿下が、君の妹に何かしたのなら……!」

「落ち着けよ」


 彼は自分よりよほど抑えることができる、感情の起伏が少ない人間なのだが。

 本気で王太子に危害を加えそうな危うさを感じた。

 レオンスはクロヴィスの肩を叩く。

 クロヴィスの様子に若干奇妙さも感じたが、それよりシャルロットへの心配が心の大部分を占めていた。


「家に帰って休んでくれ。妹を送ってくれてありがとう」

「……ああ」


 クロヴィスは頷き、落ち込みながら帰っていった。それを見送ったあと、レオンスは妹の部屋に向かった。

 ノックをすると、中から返答があった。


「シャルロット、オレだ。入るよ」


 扉を開けて入室すると、妹は寝台にいて半身を起こしていた。


「お兄様……」

 

 何か思い悩んでいるようにみえる。レオンスは妹の元に歩み寄り、寝台の端に腰を落とした。


「シャルロット、心の中にためていることをオレに話してごらん。オレになら話せるだろう?」


 シャルロットは視線を揺らした。

 レオンスはシャルロットの指に指を重ねる。


「シャルロット」

「何もありません……」


 本当に何もないのか、それともレオンスを心配させたくなくて、口を閉ざしているのか。


「殿下に、婚約をするつもりだったと言われたようだけれど」

「はい……」 


 クロヴィスと婚約させていて良かった。王太子といえども、すでに決まっている高位貴族の婚約を、無理やりに解消させることはできないだろう。


「やはりおまえは殿下に気に入られていたんだね」

「何が何だか、さっぱりわからないのですわ」


 シャルロットは唇をきゅっと噛む。

 アッシュブロンドの髪の下で、ラピスラズリの瞳が憂いを帯びて艶めいている。


「おまえはそれだけ可愛いんだから、目に留まってしまったんだよ」

「そうおっしゃってくださるのはお兄様だけですわ」

「おまえは自分の魅力がわかっていないんだね」


 レオンスは大きく息を吐き出す。妹は外見も美しいが、無自覚にひとの心を掴み、惹きつけるところがあるのだ。


「これから、いつもオレかクロヴィスと一緒にいて離れないようにしなさい。殿下も、他の相手と婚約しているおまえに無茶なことはしない」


 シャルロットは青ざめながら、こくりと頷いた。


「はい」


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