25.媚薬1
侯爵夫妻は非常に積極的で、それからも度々シャルロットを屋敷に招き、夫妻からシャルロットは丁重なもてなしを受けた。
「あなたは我が家の救世主ですわ。クロヴィスは無骨者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「結婚が七年後なのはもどかしくて仕方ない。いっそのこと、シャルロットさんは魔法学院に入学せず、二年後くらいに結婚してはどうですかな」
いつも同行してくれている兄が微笑んで侯爵に言う。
「二年後ではクロヴィスもまだ学生です。それに魔力を持つシャルロットは魔法学院に入学しなければなりません。七年後の結婚というのが現実的です」
「ふむ……」
いつもシャルロットは兄を交えクロヴィスと対面するのだが、たまには二人きりでと侯爵夫妻に勧められ、クロヴィスの部屋に通された。兄は居間で侯爵夫妻に捕まっている。シャルロットがクロヴィスと二人だけで過ごすのは、初めて訪問した日以来である。
彼の部屋は無駄なものが置かれておらず整っている。
クロヴィスは無口、シャルロットは怯えが抜けないため、二人だけだと沈黙が続く。
室内の気まずい空気にたえきれず、運ばれたお茶とお菓子をシャルロットは口にする。
「すまない」
クロヴィスが突然謝ったので、シャルロットはカップをソーサーに置いた。
「え?」
「両親が君に、この家に度々来ることを強いているようで」
「いえ……」
「君を呼び出さないようにと両親に話そう。数年後といわず、今すぐにでも結婚してほしいと両親は思っていて」
クロヴィスは紅茶を飲み、嘆息する。
「これは僕もレオンスも想定外だった……」
ぽつりと彼が呟き、シャルロットは目を瞬く。
「?」
「いや、なんでもない」
彼は紅茶を飲み干した。
シャルロットはケーキを食べながら、窓の外を見る。今日は曇っている。
朝から肌寒いくらいだったが、なぜか今、身体が熱かった。
じんじんとしてきて、シャルロットは額に手を置いた。
「どうした?」
シャルロットは吐息をつく。
「なんだか熱くて……」
「そういえば、僕も……」
彼は髪をかきあげ、眉をひそめる。
「まさか……」
彼は葡萄柄のティーポットの蓋をとり、顔色を変えた。
「シャルロット、君は紅茶をどのくらい飲んだ?」
ケーキは食べたが、紅茶はほとんど飲んでいない。
「二口ほどだと思いますが」
「なら一時間ほどで切れるな。それほど効果は強く出ないだろう」
「あの……効果とは?」
彼はテーブルに肘をつき、顔を覆った。
「両親が紅茶に媚薬を入れたようだ。だから身体が熱い」
「え!?」
(媚薬!?)
さっきから身体が火照るような感覚がしているが。
クロヴィスの紅茶のカップは飲み干されていた。
顔を覆った手で、彼は髪をくしゃりと掴む。
「だ、大丈夫なのですか、クロヴィス様?」
「大丈夫だ……」
しかし彼が手を離すと、顔には汗が滲んでいた。
「ご両親はどうしてこんなことを?」
彼は皮肉に笑んだ。
「僕が結婚の意思を示したから、両親は気が変わらないうちに早く結婚させようと思っているのだ。僕は生涯独身を貫く気だったから。既成事実を作らせれば時期を早めることができると考えたのだろう」
「既成事実……」
つまりは媚薬を盛り、なし崩し的に結婚に持ち込もうということであろうか。
「両親がここまでするとは……」
彼は項垂れ、汗を拭う。
「君の効果は一時間ほどで切れる。悪いが、それまでこの部屋にいてもらえるだろうか。君が媚薬を飲んだことをレオンスが知れば、大変なことになる」
「わかりました……」
シャルロットとしても、兄にこんなことを知られ、心配をかけたくはない。
しかし、だんだん身体の火照りは強くなってくる。
クロヴィスは椅子から立った。
甘く煌めく瞳で見つめられ、シャルロットはどきりとする。
「心配ない。君に何もしない」
クロヴィスは寝台まで行き、横になると、両手の指を組んで目元を覆った。
彼の呼吸は不規則で、汗が滴り、シャルロットよりもつらそうだ。飲んだ量が多いからだろう。
シャルロットは水差しを取り、グラスに水を注いで、彼の元に持っていった。
「クロヴィス様、お水をどうぞ」
「すまない……」




