24.期間限定の婚約
クロヴィスは己の魔力にずっと苦しみ、遺伝を恐れ、家庭をもたないことに決めた。
結婚する気はないと両親に伝えていて、養子をとることになっていた。
だがヒロインと出会い、彼女を愛するようになる。
クロヴィスが悪役令嬢を惨殺したのも、ヒロインへの深い愛情によるものだった。
彼のグッドルートではヒロインと家庭を築き、彼は妻子を守ると誓う。
ちなみに数年前、力が抑えきれなくなったとき、クロヴィスは誰も傷つけないように森に入り、そこで『土』魔力が暴走、偶然居合わせたレオンスが怪我を負った。
なぜレオンスがそこにいたかといえば、家出していたからだ。
シャルロットの母に虐げられ、家に居場所がないと感じ、森に行っていた。
クロヴィスは人を傷つけたことにショックを受けたが、レオンスはクロヴィスを励ました。かすり傷だし気にすることはない、君の魔力はすごいと。
そこから、二人の友情ははじまったのだ。
「……なぜ結婚する気がなかったのに、わたくしと婚約を?」
シャルロットは釈然とせず、隣のクロヴィスを仰ぐ。
クロヴィスが結婚を決意するなど、ヒロイン以外ではあり得ない。
「僕はデュティユー侯爵家の嫡男として、婚姻をする必要がある」
きっとクロヴィスが突如結婚の意思をみせたため、侯爵夫妻は歓喜して父に熱心に申し入れ、すぐさま婚約が決まったのだ。
「君はレオンスの妹。レオンスが大層大切にしている君のことを僕も大切にしようと思っている」
現在、彼からは殺意は感じなかった。
親友の妹として礼節をもって接してくれている。
レオンスはゲームでは悪役令嬢にうんざりしていた。
クロヴィスは、親友の妹であっても悪役令嬢を容赦なく殺した。
今、シャルロットは兄と仲が良いから、クロヴィスも気遣ってくれている?
それでも結婚までしようとするのはまったく解せない。
「跡取りが必要だから、結婚を考えられたのですか?」
親戚から養子をもらおうと思っていたはずなのに?
「いや、僕は跡取りを、もうけるつもりはない。自らの血を残したくはない」
やはり、それはゲームと同じである。
ヒロインを好きになったあとも、彼はずっとその考えでいて。
シャルロットはゲームしていたときに思ったことをつい口にしてしまう。
「もったいないです。クロヴィス様は大きな魔力を秘めてらっしゃるのに、その血を残さないとずっと思っているなんて」
するとクロヴィスは立ち止まった。
「僕の魔力の話を誰から?」
(あ)
彼は自身の魔力のことを、レオンス以外には話してはいないのだった。
シャルロットは慌てて言い繕った。
「そ、それはお兄様から、クロヴィス様がとても優秀なかただと伺ったので。きっと魔力も大きいのだろうと思ったのですわ」
彼は淡く息をつく。
「僕は特殊な魔力をもつだけで、優秀というわけではない」
いや、国内屈指の魔力保持者、クロヴィスが優秀なのは確かだ。怖いけれど。
彼の双眸が翳ったので、シャルロットは力づけたくて言葉を続けた。
「クロヴィス様は能力が高く、将来有望だとお見受けしますわ。世のためになる力をもつ、貴重なかたですわ」
悪役令嬢を惨殺したという点を除けば、彼は真面目で有能な人間で、その魔力は有益だ。
彼は赤髪の下、わずかに目を見開いて、シャルロットを見つめた。
「……ありがとう」
真正面から向き合うと、彼はやはり攻略キャラ、際立ったイケメンである。
「シャルロット」
そのとき、声がし、歩み寄ってくる兄の姿が見えた。
「お兄様」
レオンスはシャルロットとクロヴィスの前で足を止めた。
「なかなか戻らないから来てみたんだ。邪魔してはいけないと思ったんだけど」
「いいえ、お兄様、邪魔だなんてことありませんわ」
来てくれてほっとした。
「どう、打ち解けられた?」
最初の半分は無言だった。打ち解けられなかった。
くすっと兄は微笑む。
「結婚までたくさん時間はあるんだ。少しずつ距離を詰めていけばいいさ」
クロヴィスとは最も距離をとろうと決めていたのに、婚約することになった。
ヒロインが現れるまでの期間限定の婚約になるだろうけれど。




