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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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23/60

23.謎は深まる


「いえ……ただびっくりしてしまったのです」

「おまえは、クロヴィスを怖がっていたからね……。大丈夫だよ。クロヴィスと会うときはいつもオレが傍についているから」


 レオンスは優しく微笑む。


「心配しなくていい」

 

 兄の思いやりに、シャルロットは涙が滲んだ。

 レオンスがいれば、クロヴィスと婚約してもなんとかなるかもしれない。ゲームのヒロインが現れれば、婚約は解消となると思うし。




 翌日、クロヴィスと、デュティユー侯爵夫妻が屋敷を訪れ、両家で晩餐をともにした。


「息子が、シャルロットさんとの結婚を強く望みましてな。私と妻も驚き、これはすぐに婚約をと思いまして」

「……」


 クロヴィスは無言だ。


「これだけ可愛らしいお嬢さんなら、息子が結婚を熱望するのもわかりますわ。シャルロットさん、ぜひ今度、我が家に遊びにいらして」

「次の日曜などいかがですかな」


 侯爵夫妻に招かれ、シャルロットは明後日、侯爵家を訪問することになってしまった。


(なぜクロヴィス様は、わたくしとの結婚を望んだの……)


 侯爵夫妻は喜んでいて、この結婚に乗り気なのがみてとれる。が、クロヴィスは終始無表情で、熱望しているようにはまったくみえなかった。


 


 日曜、兄とともに侯爵家に赴いた。立派な屋敷で、庭園はとても広い。

 侯爵夫妻と挨拶したあと、シャルロットはクロヴィスと庭園を歩くことになった。夫妻が、婚約者二人だけにしましょうとレオンスを引き留めたので、兄は屋敷に残ることになってしまった。


 シャルロットは顔面蒼白で、クロヴィスと散策した。

 クロヴィスは寡黙だし、シャルロットは恐怖で声が出なかった。

 

 互いに押し黙っていたが、クロヴィスが気がかりそうにシャルロットに目線を流した。


「シャルロット。君は本当に健康に問題がないのだろうか」

「えっ」

 

 声をかけられてびくっと肩を揺らしてしまう。

 隣を歩くクロヴィスはアクアグレイの瞳をこちらに向けている。

 シャルロットはこわばった喉からなんとか声を発す。


「特に問題ありませんわ」


 彼はシャルロットを眺める。


「顔色は良くないように見えるし、足元も覚束ない感じだ。一度医師に診てもらったほうがいい」

「……はい」


 シャルロットは健康である。ただクロヴィスといると恐ろしくて凍り付くのである。

 シャルロットは深呼吸する。

 彼が悪役令嬢を殺害するのは未来だ。今ではない。


(彼に断罪されないように、気をつければいいのよ)


 不幸なルートに入らないようにする。

 日々備えているし、悪行なんてしない。

 彼に殺されたりしない……。

 そう自分に言い聞かせ、恐怖の時と立ち向かった。


「あの……」

「なんだ」


 シャルロットはずっと不思議に思っていることを、勇気を振り絞って口にしてみた。


「どうしてクロヴィス様は、わたくしとの結婚を望まれたのですか?」

 

 侯爵夫妻は、クロヴィスが結婚を望んだと話していた。


「それは……」


 クロヴィスはすっと視線を移動させた。


「……レオンスから君のことを聞いているうちに、興味を持ったのだ。それで結婚を申し込むことにした」

「わたくしのどこに興味を」

「……年齢や家柄などが合った」


 それはシャルロットに興味をもったことになるのだろうか……?


 シャルロットは首を傾げた。


「年齢や家柄の合うひとでしたら、他にもいらっしゃいますし……他のかたを探されてみてはいかがでしょう」

「いや、君でなければだめだ」


 シャルロットの胸に戸惑いが広がる。


「なぜでしょう?」

「どうしてもだ」


 今の話を聞く限り、自分でなければだめではなさそうだが……。

 謎は深まるばかりだった。


「……クロヴィス様には、もっとふさわしいお相手がいらっしゃると思いますわ」

「僕は元々、誰かと結婚する気はないんだ」


(確かに彼は、ゲームでそう話していたわ)


 シャルロットは、ゲームで得たクロヴィスの事情を思い返してみる。


 彼は、心身を蝕むほどの強い魔力を秘め、精神が常に緊張状態にあった。

 家系に魔族の血が入っており、それが彼に濃く現れているとゲームで語られていた。

 エドゥアールのような先祖返りみたいなものだ。


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