23.謎は深まる
「いえ……ただびっくりしてしまったのです」
「おまえは、クロヴィスを怖がっていたからね……。大丈夫だよ。クロヴィスと会うときはいつもオレが傍についているから」
レオンスは優しく微笑む。
「心配しなくていい」
兄の思いやりに、シャルロットは涙が滲んだ。
レオンスがいれば、クロヴィスと婚約してもなんとかなるかもしれない。ゲームのヒロインが現れれば、婚約は解消となると思うし。
翌日、クロヴィスと、デュティユー侯爵夫妻が屋敷を訪れ、両家で晩餐をともにした。
「息子が、シャルロットさんとの結婚を強く望みましてな。私と妻も驚き、これはすぐに婚約をと思いまして」
「……」
クロヴィスは無言だ。
「これだけ可愛らしいお嬢さんなら、息子が結婚を熱望するのもわかりますわ。シャルロットさん、ぜひ今度、我が家に遊びにいらして」
「次の日曜などいかがですかな」
侯爵夫妻に招かれ、シャルロットは明後日、侯爵家を訪問することになってしまった。
(なぜクロヴィス様は、わたくしとの結婚を望んだの……)
侯爵夫妻は喜んでいて、この結婚に乗り気なのがみてとれる。が、クロヴィスは終始無表情で、熱望しているようにはまったくみえなかった。
日曜、兄とともに侯爵家に赴いた。立派な屋敷で、庭園はとても広い。
侯爵夫妻と挨拶したあと、シャルロットはクロヴィスと庭園を歩くことになった。夫妻が、婚約者二人だけにしましょうとレオンスを引き留めたので、兄は屋敷に残ることになってしまった。
シャルロットは顔面蒼白で、クロヴィスと散策した。
クロヴィスは寡黙だし、シャルロットは恐怖で声が出なかった。
互いに押し黙っていたが、クロヴィスが気がかりそうにシャルロットに目線を流した。
「シャルロット。君は本当に健康に問題がないのだろうか」
「えっ」
声をかけられてびくっと肩を揺らしてしまう。
隣を歩くクロヴィスはアクアグレイの瞳をこちらに向けている。
シャルロットはこわばった喉からなんとか声を発す。
「特に問題ありませんわ」
彼はシャルロットを眺める。
「顔色は良くないように見えるし、足元も覚束ない感じだ。一度医師に診てもらったほうがいい」
「……はい」
シャルロットは健康である。ただクロヴィスといると恐ろしくて凍り付くのである。
シャルロットは深呼吸する。
彼が悪役令嬢を殺害するのは未来だ。今ではない。
(彼に断罪されないように、気をつければいいのよ)
不幸なルートに入らないようにする。
日々備えているし、悪行なんてしない。
彼に殺されたりしない……。
そう自分に言い聞かせ、恐怖の時と立ち向かった。
「あの……」
「なんだ」
シャルロットはずっと不思議に思っていることを、勇気を振り絞って口にしてみた。
「どうしてクロヴィス様は、わたくしとの結婚を望まれたのですか?」
侯爵夫妻は、クロヴィスが結婚を望んだと話していた。
「それは……」
クロヴィスはすっと視線を移動させた。
「……レオンスから君のことを聞いているうちに、興味を持ったのだ。それで結婚を申し込むことにした」
「わたくしのどこに興味を」
「……年齢や家柄などが合った」
それはシャルロットに興味をもったことになるのだろうか……?
シャルロットは首を傾げた。
「年齢や家柄の合うひとでしたら、他にもいらっしゃいますし……他のかたを探されてみてはいかがでしょう」
「いや、君でなければだめだ」
シャルロットの胸に戸惑いが広がる。
「なぜでしょう?」
「どうしてもだ」
今の話を聞く限り、自分でなければだめではなさそうだが……。
謎は深まるばかりだった。
「……クロヴィス様には、もっとふさわしいお相手がいらっしゃると思いますわ」
「僕は元々、誰かと結婚する気はないんだ」
(確かに彼は、ゲームでそう話していたわ)
シャルロットは、ゲームで得たクロヴィスの事情を思い返してみる。
彼は、心身を蝕むほどの強い魔力を秘め、精神が常に緊張状態にあった。
家系に魔族の血が入っており、それが彼に濃く現れているとゲームで語られていた。
エドゥアールのような先祖返りみたいなものだ。




