21.王宮に呼び出し
十四歳になったシャルロットは、父から聞かされた言葉に血の気が失せた。
「えっ、王宮に……!?」
「ああ。殿下から連絡が入ったのだ。シャルロット、おまえ一人で王宮に来るようにと」
数ヵ月前、王太子が家にやってきたが……。
あのときのことで、処罰される!?
心配した兄がついてくれようとしたが、王太子の命だと父が止め、一人送り出されてしまった。
王宮の広大な敷地内に建つ、白亜の宮殿に、王太子の部屋はあった。
そこまで侍従に案内されたシャルロットは大きな扉の前で足を止めた。
侍従が精緻な模様の入った扉をノックする。
「殿下、シャルロット・ラヴォワ様をお連れしました」
「通せ」
侍従は扉を開け、シャルロットを室内へと促した。
「どうぞ、シャルロット様」
「……失礼します」
シャルロットが入室すると、侍従は扉を閉めて消えた。
緊張しながら周りに視線を配る。
金と白を基調とした、煌びやかな家具調度品の置かれた部屋だ。
エドゥアールの自室は、ゲームにおいて回想シーンを除き登場していなかった。
魔法学院を中心とした物語だったからだ。
「よく来たな」
純白の長椅子に悠然と腰を下ろしていたエドゥアールは、自身の横を示した。
「こっちに来い」
シャルロットは室内を横切り、長椅子まで歩いた。
「座れ」
シャルロットは礼をして恐る恐る、彼の隣に腰を下ろした。
「あの……以前は本当に申し訳ありませんでした」
謝罪すると、エドゥアールは長い脚を組んだ。
「俺が王都を離れていた数ヵ月で、えらく殊勝になったものではないか? 最初会ったとき、貴様は俺を殴っただろうに」
「それはどうか、お忘れください」
シャルロットが紙のように白くなると、彼は小さく笑った。
「貴様に訊きたいことがあるのだ」
訊きたいこと……。何だろう。
エドゥアールの双眸が光る。
「どうして王宮の地下洞窟について知っていた? 限られた者しか知らないことだ。なのに、なぜ?」
前世で乙女ゲーをしていて、回想シーンで見たから知っている──とは話せなので、シャルロットはもっともらしい返答をする。
「……本で読んで知りました」
「その本のタイトルは?」
「覚えておりません」
「いつ頃読んだ?」
「それも覚えていないのです」
シャルロットが目を逸らせば、エドゥアールはシャルロットの顎に指をかけて、自身に向き直らせた。
「嘘をつくな」
「嘘ではありません」
ゲームのことを話しても信じてもらえないどころか、余計おかしく思われる。
本と説明するよりなかった。
「わたくしも、どういった書物だったか思い出せなくて、もどかしいのです。今、懸命に本を探しているところなのですわ」
願いが叶う指輪について記された本がないか、実際に今探している。
少し真実味が出たのだろう、エドゥアールはシャルロットから手を離した。
彼は眉間に皺を寄せる。
「なぜ探そうと?」
「それは」
シャルロットはこくんと息を呑む。
「王宮の地下洞窟に、願いが叶う指輪があると書かれてあった気がするので」
エドゥアールは片方の唇の端を持ち上げる。
「そんな指輪が実在すると?」
「ええ」
何より、このエドゥアール自身がゲームで語っていたのだから。
「あるのでしょう?」
彼は目を細めた。
「なぜ俺に訊く?」
「エドゥアール様は王太子殿下でらっしゃいます。王宮内についてお詳しいと思いますので」
彼はシャルロットを直視した。
「王宮の地下洞窟に、願いが叶う指輪がある? 馬鹿馬鹿しい。空想上の話だ。満月を目にした人間が狼に変身するような類いのな。それを貴様は、実際にあるものとして探しているのか」
「でも獣化しますのに……」
シャルロットがぽつりとそう口にした途端、彼の顔がこわばった。
「なんだって?」
シャルロットははっとした。
(し、しまった……っ!)
エドゥアールは獣に変身できる。黄金の豹に。しかしそれは公にされていない。




