20.内緒
「はい。シャルロット様はぼくの大事な友人です。そこでレオンス様、ご提案があるのですが」
「提案?」
「レオンス様が心配する気持ちはよくわかります。シャルロット様は美しく可愛らしい。公爵令嬢らしからぬ、親しみやすいところもありますから、その優しさに付け込み図々しく近寄ってくる男も現れるでしょう」
「君のようにな」
ユーグは負けじと続ける。
「魔力保持者であるあなたは、全寮制の魔法学院に今から一年半後入学することになります。シャルロット様の入学は三年半後。その間、残念ながらレオンス様の目は行き届きません。ぼくの家は幸い、力があります。ラヴォワ家と、グラック家が手を組めば、よからぬ輩が近づかないようシャルロット様を守れます。ぼくがあなたの目となり耳となり、見張りましょう」
「…………」
レオンスはユーグから手を離した。
「君自身がシャルロットに手を出すかもしれない」
ユーグは肩をすくめる。
「ぼくは友人として、シャルロット様と付き合いたいのです。気が合う大切な友人で、異性としては見ていません。妹になってほしいと言ったのもそれでです」
「本当か?」
「はい」
嘘だ。
シャルロットと結婚したいと思うくらい、彼女が好きだった。
けれどそんなことを話せば、決裂する。
この義兄は、自分とシャルロットを二度と会わせないようにするだろう。
本心を押し隠し、レオンスにとっても利点となることを告げた。
レオンスは値踏みするようにユーグを見据える。
「君はシャルロットに悪い虫がつかないよう、オレの目となり耳となり、妹の周囲を見張り、オレに報告を怠らないか?」
「もちろんです」
レオンスは髪をかきあげた。
「いいだろう。君の提案を受け入れよう。だがもし、シャルロットに手を出してみろ。二度とシャルロットには会わせないし、グラック公爵家は無理でも、君を完全に破滅させてやる」
「わかっています」
なんとか、最初の難題はクリアしたようだ。
※※※※※
シャルロットが借りてきた本を部屋で読んでいると、ノックの音がした。
「はい」
立ち上がって扉を開けると、廊下にユーグが立っていた。
「兄とのお話は終わりました?」
ユーグはこくりと頷いた。
「夕食をごちそうになることになりました」
シャルロットはユーグを室内に入れ、刺繍したハンカチを手渡した。
ユーグは驚いたように瞬く。
「? シャルロット様、こちらは?」
シャルロットはにっこり笑った。
「家族に渡そうと思い、刺繍していたハンカチのうちの一つですわ。わたくしはユーグ様と兄妹になることになったので、ユーグ様にもお渡ししようと」
淑女の嗜みもちゃんと学んでいると父に証明するために刺していたものだった。
ユーグは感激したように、頬を上気させた。
「ありがとうございます。とても嬉しいです……!」
ユーグはハンカチを大切そうにポケットにしまったあと、はっと何かに気づいたように、声をひそめた。
「シャルロット様、このことをレオンス様には内緒にしてください」
「内緒に? どうしてですの?」
兄とお揃いの刺繍なのだが、なぜ内緒にするのだろう。
「お兄様に知られるとぼくは殺されると思います」
ユーグの冗談にシャルロットが吹き出すと、彼はもう一度繰り返した。
「お願いします。内緒にしてください」
ユーグがなぜかあまりに真剣な顔をするので、シャルロットは戸惑ったが顎を引いた。
「……ええと、わかりました。内緒ですね?」
「絶対に」
「絶対に」
兄はユーグを気に入った。ハンカチを渡したくらいで怒ったりはしないだろう。しかしユーグが内緒にしてほしいようなので、そうすることにした。
そのあと父が帰ってき、ユーグを交え食事をした。
父はにこやかだった。
「ユーグ君は、シャルロットと同い年で、魔力保持者だね。魔法学院の入学年も同じだから、どうか娘と仲良くしてやってくれたまえ」
「はい。ぜひ、シャルロット様と仲良くさせていただきたいです」
父とユーグは和やかに会話していたが、兄はなぜかご機嫌斜めになっていた。




