19.殺意の色
ユーグ・グラックはお茶会の日にシャルロットと出会い、恋をした。
ユーグには、自分とは真逆の性格をした明朗な弟がいる。両親はなぜ弟が先に生まれてこなかったのかと言ってはばからない。
祖父が遺言で、長子に跡を継がせるようにと言い残したので、自分が公爵家を継ぐことになっているが、弟にコンプレックスを持ち、人の多い場に出るのが苦手なユーグはお茶会の日、会場から離れた場所で好きな本を読んでいた。
するとそこにシャルロットがやってきたのだ。
彼女はユーグが読んでいた本を、大きな目を輝かせてじっと見、読ませてほしいと声をかけてきた。
子供っぽいとユーグを馬鹿にすることなく、好きな本を隣で一緒に読んでくれた。
その横顔は真剣で、瞳はきらきらしていて、とても可愛らしかった。
髪は絹糸のようで良い香りがするし、ユーグはどきどきとした。
彼女を意識してしまい、本にあまり集中できなかった。
シャルロットも本が好きなようだったから、また屋敷に来てほしいとユーグは誘った。
浮かれてシャルロットのことを家族に話してしまい、彼女に気があることが父にすぐバレた。
澄んだ瞳をしたシャルロットは名門貴族にありがちな気位の高さがなく、気さくだ。取り柄のないユーグにも優しく微笑んで接してくれる。
(こんな女の子と結婚したい)
そう思っていたら、父がシャルロットに婚約の話をしてしまった。
まだ出会ったばかりなのに、シャルロットに距離を取られてしまうかもしれない。
ユーグは動揺した。警戒されたくない。
(せめてシャルロット様が妹であれば……)
そうすればいつも一緒にいられる。
シャルロットの話を聞いていると、嫉妬するくらい兄妹仲が良く、彼女の兄を羨ましく思った。
噂では、レオンス・ラヴォワは非の打ちどころがない、文武両道の人物で、妹のシャルロットを溺愛しているらしい。
挨拶に寄り、実際会うと噂どおり端整なひとだった。そしてシャルロットを溺愛していた。
彼はシャルロットを異性として見て、愛していた。
「もしシャルロットに手を出してみろ。おまえとグラック家を破滅させてやる」
ユーグは将来、シャルロットと結婚したいと考えている。
それには、レオンスを敵に回すことは絶対にできない。シャルロットと会うこともままならなくなる。
この難題を乗り越えなければ、シャルロットと結ばれることはない。
ユーグはラヴォワ家の地下で腹を決めた。
「……レオンス様。確かにラヴォワ公爵家は力をお持ちです。ですが、ぼくの家はそう簡単に破滅させられませんよ。ラヴォワ公爵家と比肩する国内有数の名門家です」
レオンスは眉をひそめる。
「それにぼくを破滅させることができても、優秀な弟がいます。グラック家は困りません。不肖の長男ではなく、次男が家を継ぐことになり、両親は喜ぶことでしょう」
本当にそうだと思う。両親は弟のほうがお気に入りなのだから。
「それより、あなたがシャルロット様を異性として見ていることを、ラヴォワ公爵とシャルロット様が知ればどう思うでしょうか。多感な年頃のシャルロット様はあなたを怖がり、避けるようになるかもしれません。ラヴォワ公爵は外聞をはばかり、あなたとシャルロット様を引き離そうとするかもしれません。だって義理でも今あなたたちは兄妹なのです」
レオンスは浅く笑んだ。
「良い根性をしている。このオレを脅す気か」
レオンスの眼差しに殺意の色が濃くなる。
今はこの兄を排除すべきではない。彼がシャルロットを他の男から守ってもいるから。
ユーグはかぶりを振った。
「いいえ。ぼくは可能性を告げただけです」
レオンスに視線を返す。
「シャルロット様に近づく男が現れるたび、レオンス様はこうして威嚇して潰していくつもりなのですか? 誰もラヴォワ公爵家の跡取りに目を付けられたくはありませんし、有効だとは思いますが、ぼくのような家には効きません」
レオンスはユーグの胸倉をつかむ手を強くする。
「今後も妹と会うと?」
ここで臆してはいられない。シャルロットに会えなくなるのは絶対に嫌だった。




