18.突き付けられた難題
「一度きちんとご挨拶しておきたいのです」
ユーグの決意が固く、彼を兄と会わせることになってしまった。
屋敷内に入ると、玄関ホールに兄が立っていた。冷たいオーラをまとっている。シャルロットは不安に思ったが、ユーグは果敢にも前に出て挨拶をした。
「レオンス様、はじめまして。ユーグ・グラックです」
「オレの妹を君が連れまわしていたのか?」
気を揉んだシャルロットは間に入った。
「お兄様、違いますわ。連れまわすだなんて。王宮書庫に一緒に行っていただけです」
「シャルロット、おまえは黙っていなさい」
レオンスはシャルロットを制し、ユーグに目を眇めた。
「今後一切、妹に近づかないでもらいたい」
するとユーグは静かに、だがはっきりと返したのだった。
「それはいたしかねます、レオンス様。シャルロット様は、ぼくの大切な友人です。妹君の交友関係をレオンス様が管理されているのですか?」
「妹を心配するのは当然だ。君が令嬢ならともかく、男だろう。年頃の男女が一緒に行動していれば誤解を招く。君は妹の体面を傷つける気か」
「お兄様……」
厳しい口調に、シャルロットはあたふたするが、ユーグは落ち着いていた。
「シャルロット様の体面を傷つけるつもりなどまったくありません。ですが、ただ会うだけで傷つけてしまうとおっしゃるなら責任をとります」
「責任をとるだと?」
「はい」
まっすぐにユーグはレオンスに視線を押し当てる。
「今は、シャルロット様は、ぼくの妹のようになってくださっています」
「どういうことだ?」
ユーグが言葉を何か発すたび、レオンスの表情が険しさを増している。シャルロットは胃が痛くなってきた。
「ぼくには男兄弟しかいませんので、シャルロット様にお願いしたのです、妹になってくださいと。今シャルロット様と兄妹同様の関係です」
レオンスはすうっと青ざめ、しばし押し黙った。
兄はシャルロットに視線を流す。
「シャルロット、本当?」
シャルロットはおろおろと話した。
「はい……。わたくしとユーグ様は友人で。彼の妹になると言いました。だから兄妹のようなものです。体面が傷つくとか、そんな心配はありませんわ」
レオンスは唇に弧を描き、ふわりと微笑した。
「ふうん、そう。どうやらオレは心配しすぎていたのかな」
ぴりついていた兄の様子が鎮まったようで、シャルロットはほっとした。
「シャルロット、おまえのあらたな友人と二人で少し話をしてみたいんだが、いい? ユーグ君、時間はあるかい?」
「はい」
ユーグは顎を引く。
「シャルロット、夕食まで部屋に行っておいで」
兄は綺麗な笑みを浮かべている。機嫌が直ったようだ。
「わかりました」
礼儀正しいユーグを、きっと兄は気に入ったのだ。緊張していたシャルロットは弛緩した。
「じゃ、ユーグ君、こちらに」
レオンスはユーグを連れて一階の廊下を歩く。居間に行くのだろう。
兄が理解を示してくれて良かった。
シャルロットは指輪のことを調べようと、借りてきた本を手に部屋に戻った。
※※※※※
「今後、妹の前に姿をみせるな」
ユーグはシャルロットの兄に地下へ連れていかれ、階段を降りた途端、薄暗い空間で、レオンスに胸倉を掴まれた。
彼は殺意のこもった目をしていた。
「シャルロットの兄はオレだけだ。二度と会うな」
先程シャルロットに向けていた笑顔から豹変している。
ユーグはシャルロットと日中に数時間会い、会話と読書をしただけだ。不埒なことなどしていない。それでなぜこれほど彼は憤るのか。レオンスの様子は異様だった。
ユーグは怯み、一つの予感を抱く。
(妹への心配というよりこれは……)
「……あなたは、シャルロット様を妹ではなく、異性として見ているのではないですか……?」
するとレオンスは浅く笑った。
「オレとシャルロットは、実の兄妹ではない。ああ、シャルロットを異性として見て、愛している」
どうやら、彼女の義兄が恋敵になるようだ。
ユーグは目の前に突き付けられた難題にどう対処すべきか、目まぐるしく考えた。




