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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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18/60

18.突き付けられた難題


「一度きちんとご挨拶しておきたいのです」


 ユーグの決意が固く、彼を兄と会わせることになってしまった。

 屋敷内に入ると、玄関ホールに兄が立っていた。冷たいオーラをまとっている。シャルロットは不安に思ったが、ユーグは果敢にも前に出て挨拶をした。


「レオンス様、はじめまして。ユーグ・グラックです」

「オレの妹を君が連れまわしていたのか?」


 気を揉んだシャルロットは間に入った。


「お兄様、違いますわ。連れまわすだなんて。王宮書庫に一緒に行っていただけです」

「シャルロット、おまえは黙っていなさい」


 レオンスはシャルロットを制し、ユーグに目を眇めた。


「今後一切、妹に近づかないでもらいたい」


 するとユーグは静かに、だがはっきりと返したのだった。


「それはいたしかねます、レオンス様。シャルロット様は、ぼくの大切な友人です。妹君の交友関係をレオンス様が管理されているのですか?」

「妹を心配するのは当然だ。君が令嬢ならともかく、男だろう。年頃の男女が一緒に行動していれば誤解を招く。君は妹の体面を傷つける気か」

「お兄様……」


 厳しい口調に、シャルロットはあたふたするが、ユーグは落ち着いていた。


「シャルロット様の体面を傷つけるつもりなどまったくありません。ですが、ただ会うだけで傷つけてしまうとおっしゃるなら責任をとります」

「責任をとるだと?」

「はい」


 まっすぐにユーグはレオンスに視線を押し当てる。


「今は、シャルロット様は、ぼくの妹のようになってくださっています」

「どういうことだ?」


 ユーグが言葉を何か発すたび、レオンスの表情が険しさを増している。シャルロットは胃が痛くなってきた。


「ぼくには男兄弟しかいませんので、シャルロット様にお願いしたのです、妹になってくださいと。今シャルロット様と兄妹同様の関係です」


 レオンスはすうっと青ざめ、しばし押し黙った。

 兄はシャルロットに視線を流す。


「シャルロット、本当?」


 シャルロットはおろおろと話した。


「はい……。わたくしとユーグ様は友人で。彼の妹になると言いました。だから兄妹のようなものです。体面が傷つくとか、そんな心配はありませんわ」


 レオンスは唇に弧を描き、ふわりと微笑した。


「ふうん、そう。どうやらオレは心配しすぎていたのかな」


 ぴりついていた兄の様子が鎮まったようで、シャルロットはほっとした。


「シャルロット、おまえのあらたな友人と二人で少し話をしてみたいんだが、いい? ユーグ君、時間はあるかい?」

「はい」


 ユーグは顎を引く。


「シャルロット、夕食まで部屋に行っておいで」


 兄は綺麗な笑みを浮かべている。機嫌が直ったようだ。


「わかりました」


 礼儀正しいユーグを、きっと兄は気に入ったのだ。緊張していたシャルロットは弛緩した。


「じゃ、ユーグ君、こちらに」


 レオンスはユーグを連れて一階の廊下を歩く。居間に行くのだろう。

 兄が理解を示してくれて良かった。

 シャルロットは指輪のことを調べようと、借りてきた本を手に部屋に戻った。




※※※※※




「今後、妹の前に姿をみせるな」

 

 ユーグはシャルロットの兄に地下へ連れていかれ、階段を降りた途端、薄暗い空間で、レオンスに胸倉を掴まれた。

 彼は殺意のこもった目をしていた。


「シャルロットの兄はオレだけだ。二度と会うな」


 先程シャルロットに向けていた笑顔から豹変している。


 ユーグはシャルロットと日中に数時間会い、会話と読書をしただけだ。不埒なことなどしていない。それでなぜこれほど彼は憤るのか。レオンスの様子は異様だった。

 

 ユーグは怯み、一つの予感を抱く。


(妹への心配というよりこれは……)


「……あなたは、シャルロット様を妹ではなく、異性として見ているのではないですか……?」


 するとレオンスは浅く笑った。


「オレとシャルロットは、実の兄妹ではない。ああ、シャルロットを異性として見て、愛している」


 どうやら、彼女の義兄が恋敵になるようだ。

 ユーグは目の前に突き付けられた難題にどう対処すべきか、目まぐるしく考えた。


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