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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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17/60

17.悪い虫


 ばくばくと心臓が激しく鼓動を打っている。

 シャルロットが深呼吸を繰り返していると、クロヴィスを玄関まで送った兄が部屋にやってきた。

 レオンスは、血の気のないシャルロットの肩に手をのせる。


「おまえは本当にクロヴィスが苦手なんだね?」

「そ、そんなことは……」


 苦手を通り越して、恐怖を感じていた。

 目を逸らせると、兄はくすっと笑った。


「夕食までまだ時間がある。休んでおけばいい」


 兄はシャルロットを引き寄せ、シャルロットの頬を自身の胸に押し当てる。逞しい胸板を感じ、肌が薄紅色に染まった。

 レオンスはシャルロットを猫だと思っているに違いない。

 シャルロットはこういった甘い兄に非常に困っているのだが……。


 


 それから数日後、家にユーグがやってきた。

 今日は兄が留守をしていたからよかったが、もし在宅ならユーグの訪れにきっと機嫌が悪くなっていたことだろう。


「シャルロット様、突然すみません。今日はシャルロット様を誘いに来たのです。王宮の書庫にご一緒にいかがですか」

「行きますわ!」


 シャルロットは即答した。兄がいないこの機会を逃せない。

 このところいろいろあって指輪のことは横に置いたままになっていた。将来に備えて探さないと。

 シャルロットは使用人に口止めをしたあと、ユーグの馬車に乗った。


「兄が戻る前に帰らないといけないので。あまり長くは外出できないのです」


 帰りが遅くならないようにしてほしいと兄に言われている。


 王宮に向かう馬車の中で、ユーグは不思議そうにした。

 

「日が暮れるまでにはお送りしますが、どうしてお兄様が戻られる前に、帰らないといけないのですか?」

「兄はいろいろと心配するのですわ。心配をかけたくないので」


 この間のレオンスの様子を見て、もう少し早めに帰ろうと思ったのだ。

 ユーグは目を伏せる。


「仲が良い兄妹なのですね。ぼくは男兄弟しかいないので、羨ましいです。妹が欲しかったので。シャルロット様はお兄様と家で、どのように過ごされているのですか?」


 シャルロットは家でのことを思い浮かべる。


「兄に勉強を教わったり、一緒に庭を散歩したりしています。あと、わたくしを亡くなった猫のように兄は思っています」

「猫?」

「はい」


 説明すると、ユーグは驚いた顔をした。

 彼は目の前の空間を見据え、押し黙っていたが、意を決したように口を開いた。


「あの、シャルロット様、よろしければ、ぼくの妹になってくださいせんか」

「え?」


 シャルロットが目を丸くすると、ユーグは恥ずかしそうに睫を揺らせた。


「同い年ですけれど、シャルロット様みたいな妹がいればいいなと思って……。ぼくより、弟のほうが出来が良いんです。ぼくは頼りになる人間ではありませんが、妹がいれば少しは変われるかなって」


 そういえばゲームでも、ユーグは要領の良い弟にすべてもっていかれていて、自信を喪失していた。

 ユーグも優秀だが、彼は自己主張するタイプではなく、弟と真逆の性格で損をしているのだ。

 ユーグを気の毒に思い、シャルロットは承諾した。


「わたくしなどでよければ」


 彼が兄弟への鬱屈した思いがなくなり、自負心をもてるようになるのであれば協力したかった。


「よろしいですか?」

「はい」


 彼にはいろいろ世話になっているし、力になりたい。


「ありがとうございます、シャルロット様!」


 ユーグは瞳を煌めかせ、明るく微笑んだ。



 王宮に着き、巨大な書庫に行くと、蔵書数に圧倒された。

 願いの叶う指輪について載っていそうな本を、複数の分野や視点から探し、シャルロットはユーグと読んでいった。


 しかし量が多すぎ、とてもその日だけで調べ終えることはできなかった。

 また来ることにして、今日は帰ることにした。

 

 屋敷までユーグに送ってもらったが、シャルロットは黒塗りの馬車を見て、兄が帰ってきていることに気づいた。


「兄が帰っているようですわ」


 シャルロットが焦ると、ユーグは背筋を伸ばした。


「ではぼくは、レオンス様にお会いして、ご挨拶を」

「いえ……それはやめておかれたほうがいいです、ユーグ様」

「どうしてですか?」


 兄はユーグのことを悪い虫だと言っていた。顔を合わせるのは避けたほうがいい。


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