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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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14/60

14.愛猫の代わり


 翌朝、シャルロットが護身術の稽古に励んでいると、敷地内に煌びやかな馬車が入ってくるのが見えた。父の訪問客だろう、かなり身分のあるひとだ。

 気にせず稽古を続けていると、少ししてメイドがシャルロットの元にやってきた。


「シャルロット様」


 シャルロットは手を止め、汗を拭った。


「何かしら?」

「旦那様がお呼びなのですが」

「お父様が?」

 

 さっき来客があったのに、自分に何の用だろう? 


「今、お父様は来客応対中でしょうし、わたくしも稽古の途中だから。あとで行きます」

 

 メイドは戸惑いつつ、それを父に伝えに戻った。

 護身術の指南役を相手に、シャルロットが背負い投げの練習をはじめると、突如声が響いた。


「朝から男を放り投げているとは、粗暴な女だな」


 声のしたほうを見ると、庭に、昨日の変なイケメンが立っていた。

 なぜここにいるのか。

 再び顔を合わせることになって、シャルロットは眉を寄せた。


「あなた、屋敷に勝手に入り込んだの?」

「貴様に会いにきてやった。ありがたく思えよ」


 シャルロットは腰に手を当て、彼を睨む。


「どうしてありがたく思わないといけないの! ここから出て行きなさい。不法侵入は立派な罪だわ」

 

 彼は王宮騎士だと思うが、常識がわからないのか。

 人の家に侵入するなんて。

 

 声を張り上げた直後、シャルロットは少年の後ろに父と兄がいるのに気づいた。

 父は倒れんばかりに真っ青だった。


「シャルロット、失礼ではないか、今すぐ謝罪しなさい! こちらのかたは、王太子エドゥアール・ミカエル・ファルード殿下だぞ……!」

「え?」


 シャルロットは棒立ちになる。

 最後の攻略対象が──王太子エドゥアール・ミカエル・ファルードだが……。

 シャルロットは父から少年にぎこちなく視線を移す。

 金の髪に明るい青の瞳。冷たい表情の超絶イケメン。


(う……)

 

 確かに、王太子エドゥアールだ。

 ゲームより今は四歳若いが、俺様なのも、顔立ちも同じだった。

 彼は昨日王宮にいたし、超がつく美少年。攻略対象でないわけがなかった。なぜ気づかなかったのか……。


(断罪される……!)

 

 彼を踏んづけて、引っぱたいてしまった──!

 さあっと血の気が引いたシャルロットに、エドゥアールは皮肉に笑んだ。


「さっきまでの威勢の良さはどうした?」


 シャルロットは頭を下げた。


「申し訳ありません……! 知らなかったとはいえご無礼を。お許しくださいませ……!」

 

 エドゥアールはこちらに歩み寄ってきて、目の前に立った。

 シャルロットの顎に指を絡め、顔を上向かせる。

 稽古用の飾り気のない服を着たシャルロットに、彼は視線を這わせる。


「貴様が、本当に公爵家の人間だったとは思わなかったぞ?」


 彼は変なひとだったから、シャルロットも彼が王太子だとはわからなかった。

 エドゥアールは唇に弧を描く。


「今日は確認に来ただけだ。今度、俺の元まで来い」


 彼は父に視線を流し、歩き出す。


「用は済んだ」

「は、はい!」


 父がエドゥアールを見送りに、屋敷の正面へと移動していった。


「シャルロット、これまでに殿下と顔を合わせたことが?」


 近づいてきた兄に問いかけられ、シャルロットはかぶりを振った。


「いいえ、全然……」

「では彼はなぜ今日おまえに会いに?」

「わかりませんわ……」


 昨日ユーグと王宮に行った際、エドゥアールに遭遇した。

 しかしそのことは兄には内緒にしていた。


「誰か違うひととお間違いになっているのだと思います」


 ああ、エドゥアールに名乗るのではなかった。

 ならバレなかったはず。

 ゲームでは確か、悪役令嬢は王太子と十五歳のときに婚約している。

 

 昨日のこともあるし、エドゥアールのシャルロットへの印象は最悪なはずだ。今後も婚約することにはならない。それだけが幸いではあった。



 今日は兄の部屋で勉強を見てもらった。そのあと、机から長椅子に移動した。


「おいで」


 レオンスに促がされ、シャルロットは兄の隣に座った。居間でもこうして横に座らされることが多い。

 猫をもふるように、レオンスはシャルロットの髪を撫でる。


「お兄様、わたくしは猫ではありませんわ?」

「ああ、おまえはオレの可愛い妹だ」


 シャルロットは溜息をつく。

 死んだ愛猫の代わりのように思われている気がしてならない。

 だが頭をなでなでされると、心地よく、ゴロゴロと喉を鳴らしてしまいそうである。


「殿下が今日、シャルロットに会いにきたのは、おまえが彼の目に留まったからではないだろうか」


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【カクヨム版】
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