12.謎のイケメン
二日後、ユーグと王宮に行くことになった。
また彼と会うと知られれば、きっとレオンスの機嫌が悪くなる。
それで女友達の家に行くと嘘をついた。
今回は、御者にも口止めした。
ユーグの家まで行き、そこからグラック公爵家の馬車に乗り換え、王宮に向かう。
馬車の中でユーグが言った。
「今日ご案内できるのは重臣用の棟と、その周囲の庭園になります」
「わかりました」
王宮の地下洞窟に行きたいのだが、さすがにそれは難しいだろう。
王宮は広大で、幾つもの宮殿が聳え立っていた。
たくさんの噴水や池があり、神々の彫像群が飾られている庭園を抜け、大きな棟の前で馬車は止まった。
建物内に入り、重臣用の一室まで行くと、中高な面立ちをした中年男性がいた。
「父上、ラヴォワ公爵家のシャルロット様です」
ユーグに紹介されて挨拶を交わすと、グラック公爵は微笑んだ。
「あなたがシャルロット嬢か。息子が私に異性を紹介するなんてはじめてでね。お茶会の日からあなたのことを家でよく話している。随分気に入っているようだ。よければ息子と婚約しないかい?」
「父上っ!」
ユーグは目を剥いた。
「突然何を言い出すんですか!?」
「ユーグ、自分で言えないだろうから、私が直接交渉しているのだよ。どうだろうか、シャルロット嬢?」
「シャルロット様、行きましょう!」
ユーグはシャルロットの手を掴んで、その部屋を出た。
大理石の廊下を進んでいくユーグは赤面している。
「申し訳ありません。今の話は忘れてください。父は冗談をよく言うひとなんです」
「そうなんですか」
「はい」
冗談だったようである。
シャルロットは手元に視線を落とす。ユーグがシャルロットの手を強く握っていた。
「どうしました、シャルロット様?」
ユーグは視線の先を追い、手を握っていることに気づけば、はっと手を解いた。
「も、申し訳ありません……っ!」
「いえ」
ユーグは慌て、シャルロットはふふと笑った。ユーグはさらに顔を赤くした。
「婚約者でもありませんのに、手を取ってしまって……」
涙目になるユーグがシャルロットは可哀想になってきた。
「そんな謝ることではありませんわ。お兄様ともよく手を繋ぎますし、それと同じです」
「レオンス様と手を繋がれるのですか?」
「はい」
屋敷内でも庭を歩くときなど手を繋ぐ。兄は自分を幼子のように思っているのだ。
「レオンス様が羨ましいな……」
「?」
ユーグはぷるぷるとかぶりを振る。
「いえ、何も」
シャルロットはユーグと棟内を見て歩いた。地下洞窟に繋がるような何かは見つからない。
そのあと庭園に出た。
王宮は広い。
周りを見回して歩いていると、いつの間にかユーグとはぐれてしまった。
シャルロットは焦ったが、この際行けるところまで行ってみようと決意し、地下への道を探した。
すると本格的に迷子になってしまった。最初の棟がどこにあるのかもわからなくなった。
森のような場所に迷い込んでしまい、空を仰いでいると何かにつまずいた。
「何をするのだ」
見れば地面に横向きに倒れているひとがいた。寝転がっていたそのひとの足をシャルロットが踏んでしまったようだ。
「申し訳ありません」
謝罪すると、ブロンドの髪の人物は身を起こした。
長身でしっかりした体躯をしている。ここで休憩していた王宮騎士かもしれない。
こちらに顔を向けたそのひとは、セレストブルーの瞳、通った鼻梁、薄い唇をしたイケメンだった。魔性の兄に匹敵する美少年だ。
一瞬目を奪われてしまったものの、呑気に見惚れている場合ではなかった。
きっとユーグが心配しているし、戻らなくては。
イケメンに頭を下げて立ち去ろうとすると、手首を掴まれた。
「待て」
少年は観察するようにシャルロットに視線を押し当てる。
「貴様は誰だ? なぜここにいる?」
空色の瞳に訝しげに見られ、シャルロットは申し開きをした。
「わたくし、怪しい者ではございませんわ。シャルロット・ラヴォワと申します。知人と王宮を訪れたのですが、歩いているうちに迷子になってしまったのです」
「迷子……」
「はい。知人がわたくしを探していると思いますので、戻らなければ。失礼しますわ」
しかしイケメンは、手を離そうとしない。
「あの……?」




