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泥中の華、怨嗟渦巻き沈んでいく ⑥


 【境地】へと至る器なれど…。


 涼宮には【死に対する】恐れは無かった。娘を失ってしまったあの時から…。娘の復讐を誓ったあの時から、普通に死ぬ事さえも赦されないと考えていたからである。罪を犯すと決めたのだから罰を受ける事に何ら抵抗は無かった。


 因果応報…。


 涼宮は、その言葉を受け入れていた。娘の復讐とは云え、人を殺めるのは人としての道を外れる事になる。そして…。人としての道を外れたのならば【人でなし】の道を進む以外に道は無い…。憤怒の感情に支配されていたとは云え…。ソレでも涼宮が自ら選択した事に違いは無かったからだ。


 ソレ故にいずれは訪れるであろう天罰としての【死】ならば喜んで受け入れる覚悟は出来ていた。


 しかし…。


 眼前にあるのは不条理な死だ。天罰としての【死】とは程遠い…。常に命の傍らに寄り添っている不条理。ソレは突如として牙を剥く。


 《華蓮…。ゴメンね…。》


 光の屈折が魅せている無数の子供の手が涼宮の肉体に絡み付く。その幻想の中…。涼宮は、もう一つの幻想を視た…。


 無数にある子供の手の内の一つに。娘のモノと連想させる痣が視えた。そして…その手は涼宮を押し返そうとしている。


 『都合の良い錯覚だ。』

 涼宮は、そう想った。そう想ったからこそ未だに希望を持とうとしていた自分に気付いた…。


 異変に気付いたのは一人だけだった。モニターを見つめていた月執つきとりの口角が少し上がる…。


 涼宮の脳内に…。

 娘の聲に似た聲が鳴り響いた。


 《いずれは【境地】へと至る器なれど…。現在いまだ、その器には到達しておらず…。もし現在いま【境地】に触れるのなら、【狂気】にまれ死へと至る事もあろう…。だがソレでも【自分自身】を受け入れようとするのならば…。渇望せよ。我、汝に更なる力を授けん…。》


 涼宮は少し寂しそうに微笑み…。

 そして…小さく頷いた。


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