人を喰らう死体と火中の蛾 ③
例えば…。ソレ…。
灰谷玲央は、漸く視線を白鷺へと向けた。しゃがみ込み、如月の右腕を齧りながら視線の先にある白鷺を視る…。
「ソレがあんたの【咎】なのか?良い趣味してるなぁ…。」
灰谷の視界に映る白鷺の【咎】。灰谷は白鷺の頭部を包む異様な造形に感嘆の笑みを浮かべた。白鷺の顔を左右から包み込む様に右に祖父、左に祖母の顔が張り付いている。祖父母の削ぎ取られた耳の穴から白鷺の瞳が覗き、口の付近にある防護マスクから二本の管が生えている。そして…ソレは其々、祖父母の口へと繋がっている。どうやら其処から酸素が供給されているのだろう。コシュー。コシュー。と音が漏れている。
「あっ。やっと気付いてくれた。良いでしょ?この防火服、私のお気に入りなの。」
「でも。初戦が俺とか…。可哀想だな…。あんた…。」
灰谷の聲が響き渡った。
「はぁ?」
「鋭利な爪も牙も持たない人間が何故、食物連鎖の頂点に立てたのか考えた事あるか?」
「知らないわよ。そんなの…。ってか何が云いたいのか解らないんだけど…。」
「例えば…。ソレ。」
灰谷は白鷺を指差した。
「人間って奴は支え合い知恵を絞り生きてきたから武器や防具、罠なんかを創り出せたんだ。【戦争では地形を変える程の威力あるモノ】も使われる。ソレもそう云った類のモノだろ?でだ…。人間は武器があったからこそ食物連鎖の頂点に立てたんだよ。」
そう云うと、灰谷はユルリと立ち上がる。
「俺の【咎】はカンニバル・コープスって云うんだ…。捕食した相手の生命力を己の糧として変換出来る…。だから俺には武器と云えるモノが無かった…。強いて云うなら己の肉体そのモノが武器なんだ…。と先程迄は、そう思っていたんだよ…。けどさ…。声が聞こえたよ…。【ステージⅡからステージⅢへと進行した。】ってな…。俺の咎は【希望の咎】。支援特化の能力だ…。己への支援、要は己を強化する事が俺の【咎】だと思っていたんだが違った。違ったんだよ…。直前に喰らった奴に【生命】を分け与える事こそが【カンニバル・コープス】の能力だったんだよ。」
灰谷は白鷺の方へ一歩踏み出た。
「【カンニバル・コープス】」
灰谷が言葉を投下した瞬間。地面に堕ちていた肉塊がモゾモゾと蠢き、肥大していく。肉塊は人の形を成し、如月睦月の姿となった。だが、生前の如月とは違い…。ソコには知性の欠片も無い【生ける屍】が立っている。
「此奴は【生命力】を貪欲に求めていてな…。常に飢餓状態だ。生きとし生けるモノには容赦無く喰らいつく…。生きた儘、喰われるのは苦痛だぞ…。しかも、この【生ける屍】には不死の特性がある…。コレこそが…。俺の武器だったんだ…。」
灰谷は嗤った。




