虚無的機械と空舞う風船 ③
つくづく救い様が無いんですね…。
名を呼ばれた【咎】は、その能力を主に使われる幸福を証明するかの様に喜びで悶え震えた。名を呼んでくれたのも久方振りで、最愛の主と出逢えたのも三度目だったからだ。
〚その右手…。邪魔ね。〛
凛とした声だった。
バシュッ。と音が奏でられ…。
如月の右手が爆ぜる。
「グッ…。」
如月は疵口を塞ぎながら後退った。後退った後に片山の方へと双眸を向けた。そして…双眸を向けた後に…。こう云った。
「何だ?【ソレ】は…。」
如月が左手の指で差した先には女性がいた。
人が十人十色と謂われる様に…。
【咎】も百人百様である。
【所在無き風船】
彼女は人の姿を好んで模している。その姿は【湯田遊】と云う女性の姿だった。その姿を模したのには彼女なりの意味があった…。主の心の深淵に佇み、現在尚、主が深く愛している存在だったからである。
ロングウルフの髪が風に舞う。黒い蛇の様な布が凹凸のある肉体へと巻き付き、唇は深紅に色を染め妖艶さを際立たせている。
「女性に向かって【ソレ】とか…。つくづく救い様が無いんですね。彼女は僕の【咎】。【所在無き風船】彼女には自我がある…。余り挑発しない方が身の為ですよ。」
「だから何だ?既に御前は何度も俺の攻撃を受けたんだ。そろそろ意識が…。」
如月は何かに気付く。
「今頃、気付いたんですか?もう酔いも醒めてますよ…。彼女のお陰でね…。」
片山は【所在無き風船】へと視線を向けた。
「ありがとう…。【JUDE】…。」
JUDEと呼ばれた【所在無き風船】は恍惚の表情を浮かべたのだった。




