死刑囚 轟 京也 ⑦
見つけた…。
取り入ろうとする者。逃げ惑う者。命乞いする者。動かぬ者。異形の化物。僕の意思とは関係無く、僕の肉体は嬉々として剪定鋸を斬り付けては引いていく。斬り付ければ桃の匂いが立ち込め、幸せに包まれていった。
通常に戻る頃には…。人間、化物の残骸が其処ら中に散在していた。
「つっ…。」
激しい痛みが肉体を襲う。夥しい数の瑕、痣が僕の肉体を色付けしていた。パクリと割れた肉からはドクドクと血液が溢れている。左腕は肘から千切れ、辛うじて皮膚だけで繋がっていた。
右脚そして右手に持つ剪定鋸を引き摺りながら歩いていく。床と金属の刃が擦れて歪な音が産み出されていた。そんな状態でも不思議なくらいに冷静な自分がいる事に気付く。【状況を把握しなければ…。】そして僕はモニタールームへと向かっていく。瞳には映し出されているのに、其処迄の距離が矢鱈と長く感じるのだった。朦朧とする意識の中、漸く辿り着き、ドアノブを廻す。視界に映り出される幾つものモニター。
「見つけた…。」
不意に背後から女の聲がした。
「貴方も能力者?」
『貴方も?』
その言葉を反芻すると同時に反射的に肉体は振り向いていた。
が…。その瞬間。
僕の肉体は部屋の中のモニターへと、ガシャンと音を立てて激突した。すると僕の左腕は完全に千切れ、床へ墜ちていく。
「誰かと思ったら…。轟さん?」
其処には矯正医官、白雲光が立っていた。矯正医官とは拘置所等に勤務する医師である。普段は結っている長い髪を靡かせた彼女の姿は、いつもと違う雰囲気を漂わせる。そんな彼女の姿には【雰囲気が違う】とは別の違和感があった。彼女の纏う気質が僕の知っているソレとは違う。声色も視線も表情も静かな狂気を孕んでいるかの様だった。
「怪我してるね。大丈夫?見せてみて。」
白雲は発した言葉とは裏腹に、舌舐めずりをし微笑みながら近寄ってくる。
私…。そう言葉を千切り…。
「創傷を眺めるのが好きなんですぅ。」
と歓喜に震える声で云った。




