死刑囚 轟 京也 ⑤
ようこそ。新世界へ。
白く深い霧を抜けた時…。
心の内に響く声があった。
《ヨウコソ オイデクダサイマシタ》
《アナタハ エラバレタノデス》
《サァ トキハナチナサイ》
心の深淵から本能の様なモノが形を成すのを感じた。産まれた堕ちた時から、生きる為に自然と呼吸をするかの様に…。僕は【ソレ】を理解する。僕は特殊な能力を得たのだろう…。
カチャリと部屋の扉が開かれる。警告音が鳴り響く拘置所。不穏な咆哮。悲鳴。怒号。其れ等が入り混じる。
その時だった。僕の首元が違和感を感じる。何事かと手をやると、ヒンヤリとした感触があった。
不意に首輪から美しい聲が産まれる。
『ようこそ。新世界へ。現在から此の拘置所内で殺し合いをしてもらいます。最後迄、立っていた方には【自由】になる権利と少しの間だけ【拘束】される義務が与えられます。話の詳細は生き残れたのならお教えしますよ。此れは警告であり、契約でもあります…。信じるか信じないかはお任せします。では…。御武運を…。』
部屋から出て、辺りを見廻す。他の人間も首元に特殊な金属の首輪が嵌められている。涎を垂れ流し俯いている者もいる。其れ等の人間に混じり異形の化物もいるようだ。
「へぇ…。」
本能が感じ取る。あの異形の化物達も、また人間だったのだろう。また辺りを見渡す。すると首に嵌められている首輪を強引に外そうと試みる人間が視界に入った。視軸をずらし、ピントを合わせる。首輪が外れた瞬間に、その首輪は破裂した。その人間の頸動脈からは血液が噴水の如く噴き出ている。
「とりあえずは…。生き残れって事ね。」
僕は【桃源郷】に辿り着く迄は死ねないのだから…。
【名を呼べ。】
【さすれば御前に力を授けよう。】
心の深淵から響く聲に…。
僕は応えた。
「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット…。」
本能が囁く様に告げる。
【ステージ0。能力身体能力の向上。眼にした二つ物質を瞬時に合成し、武器として扱える能力。生物として認識しているモノは合成素材としての使用不可。自らの手で持てない質量の武器は合成不可。】
『なるほど…。』
僕は眼の前にある木製の机と鉄製の格子に意識を向け、頭の内でアレを想像する。
此の手に現れたのは…。
桃の匂いを漂わせた…。
巨大な剪定鋸だった。




