死刑囚 十返 宮子 ⑤
何故、この悪夢の様な現実を…。
忘れていたのだろう…。
何で黙っていた…。何で話してくれなかったんだ?と夫は重苦しい表情で私に、そう云った。
「何で?。どうして?」
私の唇から零れるのは…。
疑問符の付く言葉だけだった。
記憶の蓋が開いてしまった。
そうなってしまったなら…。
何もかもが壊れるのだろう。
私達が築き上げてきた幸せも。
私達が築き上げてきた関係も。
何もかもが…。
何故、この悪夢の様な現実を…。
忘れていたのだろう…。
【幸せを壊したのは悪夢の亡霊だ。】
息子が産まれる一年程前。私のバイト先に道島光星と云う名の新人が入ってきて、私は彼の指導係に選ばれた。少し挙動不審だったけれど、話し掛けてみたら普通に会話が弾んでいたとは思う。彼は私の二歳歳下で大学生だった。彼は医師を目指しているらしく、友達と脳の構造を研究しているとの事だった。
バイトに入ってきてから数日後、彼は私を口説いてきた。何でも数年前にも私に話し掛けたのだと云う。私は結婚をしているし、普通に気味が悪かった。だから私は店長にそれとなく相談し、彼と距離を置く事にしたのだった。彼がバイトに入って一ヶ月ぐらいした時に新人歓迎会が開かれた。私は行きたくはなかったのだけれど…。話の流れで行かざるを得なくなった。
其れが悪夢の始まりだった…。




