死刑囚 十返 宮子 ③
好奇心には勝てなかった…。
「十返 湊さんですよね?」
道島 巴絵と名乗る女性に呼び止められたのは八カ月位前の事だ。その女性の話に依れば彼女の息子、光星さんが自殺をして亡くなったのだと云う。そして…どうしても渡さなければならないモノがあったらしく、興信所を使い私の居場所を突き止めたと云う事だ。
突拍子もない話に私が困惑していると彼女は私に向かいノートらしき物を差し出した。
「これは光星が書き記した日記帳だと思います。本来なら貴方の奥様に読んで頂きたいのですが…。ソレは…光星が望んではいない様でしたので…。でも…。」
読んで頂ければ解るとは思います。と言い残し、彼女は私の前から姿を消したのである。如何にも胡散臭い話だと自分でも思ったが、好奇心には勝てなかったのだった。
家へと帰り自室へと向かう。隠し事をしているかの様な気持ちとなり、背徳感に包まれている自分がいた。
頁を捲ると…。几帳面そうな綺麗な文字で文章は書かれている。どうやら十七年程前の日記帳の様だ…。
9月12日。晴れ。
僕は運命の出逢いをした。でも今はまだ彼女の事を何も知らない…。
9月19日。快晴。
親友の如月睦月のお陰で彼女の名前がわかった。
【南川宮子】
良い名前だ。
南川…。ソレは妻の旧姓だ…。
9月21日。雨。
彼女に声を掛けた。聞こえなかったようで振り向いてさえくれなかった。
9月23日。曇り。
どうやら彼女には付き合っている男性がいるようだ…。告白する前にふられてしまった。
その後、暫く日記は更新されていなかった様で、日付は飛んでいた。次に書かれていたのは十四年前の日付から始まる。
5月6日。快晴。
彼女と再会した。彼女は僕の事を覚えてはいなかった。だからこれから僕の事を知ってくれれば良いと思う。
5月10日。曇り。
彼女は結婚していた。十返湊…。誰その人?
日記帳に出てきた自分の名前にドキリと心臓が跳ね上がる。そうだ。私と宮子はその一年前に結婚している。二十歳で結婚したのだから同年代では早い方だった…。
頁を捲り、読み耽る。
あぁ。
私は膝から崩れ落ち…。
嗚咽を漏らし泣いた。




