被告人 渋澤 円 ③
私が…。
殺ってあげる…。
早朝。都内。江戸川河川敷。母を車椅子に乗せ、私達は其処にいました。幼少の頃。まだ幸せだった頃。よく父と母に連れられて遊んだ想い出の場所です。珍しくその日の母は無言でした。現在、思い返せば、その日の母は一時的に認知症の症状が緩和されていたのかも知れません…。
「お母さん…。もう駄目だよ…。」
私は車椅子の母の目線に合わせ、悲しみと遣る瀬無さが入り混じる震えた声で、そう声を掛けました。
すると…。母は優しく微笑み。そう。もう駄目なのね…。と返してくれたのです。
「お母さん…。ごめんね。一緒にお父さんの処に逝こう…。」
母は静かに頷きました。
「円が罪を背負う事無いのよ。円は私の可愛い子…。私が殺ってあげる…。」
その言葉を聞いた私は…。
自分が殺らなければならない…。
そう覚悟したのです…。
母の首を絞めました。力が入らないので長い時間、首を絞めていたのだと思います。その時の私を見つめる母の優しい瞳は忘れられません。
そして…。
母を殺してしまった私は。
自らの首をカッターで切り…。
自殺を図りました。
父と母と三人で…。
彼の世で幸せになる為に…。




