被告人 渋澤 円 ②
現実から逃避するかの様に…。
事の始まりは、私が高校生二年生の頃でした。父が他界してから私達の人生の歯車が狂ってしまったのだと思います。それから程なく母に認知症の症状が出始めました。父を深く愛していた母は、父の存在が無くなってしまった事に耐えられなくなったのでしょう…。時が経つに連れ、現実から逃避するかの様に母の認知症は悪化の一途を辿っていきました。
その頃には学費が払えなくなり、私は高校を中退し、働き始めたのです。然し、そんな境遇の私には真艫な働き口なんて有りませんでした…。介護する事にも時間は取られ、雀の涙程の預金は湯水の様に消えていきました。二十歳になる頃に一度、条件の合った会社に就職はしましたが…。介護と仕事を両立させる事が困難になり、職場に迷惑をかけたくないという思いも強く、私は仕事先を退職しました。生活保護も考えたのですが、失業給付金を理由に認められず門前払いをされました。暫くすると失業保険の給付も止まったので、私は借金をするしかなくなりました。
家にあるモノは何でも売り、生計の足しにしたのですが、そんなモノに然程価値なんて有りません。精々、二、三日の食費になるかならないかです…。夜の仕事も考えました…。でも夜になると母が徘徊するので、それすらも出来なかったのです。
借金も限度額を超え…。
私達は心中する事にしました…。




