死刑囚 灰谷 玲央 ④
【己以外は全て糧なのだ…。】
奇跡的に生還した俺は治療の為に日本へと戻ってきていた。ソレは俺自身が望んだ訳では無く、状況を知っていた祖父母からの懇願の様なモノだった。
治療と云っても肉体的なモノでは無かった。何方かと云えば精神的なモノである。医師の診断に依れば心的外傷後ストレス障害…。要はトラウマと呼ばれているモノなのだそうだ。戦争帰還兵の多くが抱えてしまう病なのだと云われた。
そうは云われたモノの俺自身としては全くと云って良い程に自覚は無かった。罪悪感は微塵も感じていなかった。きっと己の内にある【弱肉強食】の概念が確立しているからに他ならない。
戦争と云う過酷な世界で生きてきた俺には日本での暮らしは飽き飽きする程に平和過ぎた…。すると肉体の内からか精神の奥底からか言葉の様なモノが聞こえてくる様になった…。
【己以外は総て糧なのだ。】と…。
そうして…。
空腹になると…。
夜の街へと…。
溶け込んでいった…。
そんな俺が殺人、及び遺体損壊・遺棄で現行犯逮捕され、死刑宣告を受けたのは帰国より一年後の事である。
強者である筈の俺が弱者共に死刑されるのは納得がいかなかった。どうやって戦況を変えるか思案していた時…。
突如として閃光弾が放たれ…。
眼も眩む光が俺を襲った…。
灰谷 玲央。
二十八歳。男性。
後に【希望】と思われる咎を発症。
咎名【カンニバルコープス】
ステージⅡ。末期




