死刑囚 如月 睦月 ①
部品が壊れてしまったのだろうか?
どうやら自分は記憶に無い頃から、機械が好きだった様だ。幼い頃の写真の中の自分は常に何らかの機械を手に持っている。時計。カメラ。携帯電話。寝る時にまで、何らかの機械を抱いていたそうだ。
機械は緻密で繊細である。部品一つ欠けては正常には動作はしない。総てが計算されて設計されているのだ。そんな自分はと云うと、小学生に上がる頃には機械を分解する事を覚えた。分解する事で、物の内部構造が解る様になり、ソレがどの様に連動し動く仕組みになっているのかも次第に解る様になっていったのである。
精密ドライバーで螺子を外していく。ソレから外装を外し内側を覗き…。そして…。一つ一つのパーツを取り外し、几帳面にソレを並べ、暫く眺めては、またソレを組み立てる。その様な事を繰り返していた。
人付き合いは苦手だった。人は機械と違い、予想不能な事をする。ソコには安定性も信用性も何も無い…。人の温もりが大切だと聞いた事もあるが、機械だって熱を放つ、その温もりの方が自分には合っているのだと漠然と考えていた。だからか学校から帰ると、部屋に閉じ籠もり機械を分解する日々を過ごしていた。
或る日。そんな自分を心配した両親が子犬を連れてきた。生き物の温もりに触れれば自分に何らかしらの変化があると考えていたのであろう。初めて子犬を抱いた時、薄い皮一枚の向こうからトクトクと心臓が機能している音を…。生命の鼓動と云うモノを肌で感じた。擽ったい何とも云えぬ気持ちが肉体を駆け巡るのを感じたのだ。
ソレから自分は、子犬との時間を大切にした。
何時頃だったか…。朝起きると子犬の体温が無い事に気付いた。呼び掛けても、揺すってみても子犬が目を覚ます事は無かった。
部品が壊れてしまったのだろうか?
慌てて抱き抱える。皮膚越しに感じる金属やプラスチックとは異なる硬さと冷たさ。ソレはやたらと冷えて感じた。
分解して部品を変えないと…。
そう思った自分はその後、愕然とする。
子犬には螺子が無かったのだ。精巧に隠されているのかと指の感覚を頼りに隅から隅迄、触れていくのだが、指先には何の手応えも無い。どうした事かと…。両親を大声で呼んだ。
驚嘆の表情を浮かべた両親が駆け寄る。
「動かないんだ…。どうしたら分解出来るの?螺子が無いんだ…。部品を変えなくちゃ…。動かないでしょ?」
「睦月…。御前は…。」
その時の両親の自分を視る眼が、迚も冷ややかだった事を自分の脳は記録している。




