月執 明日花
生き残る為にする行いに…。
何の罪があるのだろうか?
物心付いた時からだ。産まれ墜ちた世界と己との関係性に違和感があった。知識を得れば得る程に、肉体が成長すれば成長する程に、その違和感は確かなモノとなっていた。要は、この世界は私と整合性が無かったのだ。一見にして矛盾の無い様にも見える世界は…。その実、矛盾が溢れ返っているのが散見していたからである。
【誰しもが平和を望んでいるのに、争いを続けている状態とでも云えば良いのだろうか?】
そして、ソレを想うのは人間だけなのだろう。そもそも自然界には、その様な概念が無いからだ。【生存本能】。もし、ソレだけで生きられるとしたのなら、ソレが何物にも代えがたい幸福なのだと私は強く想う。
【本能の儘に生きる。】
ソレがこの世界では叶わぬ事を知ったからだった。そして…ソレこそが世界と私の違和感だったのだろう。法律。規則。規律。道徳。ソレは鎖となって私の動きを封じていた。そして…何もソレ等が悪い事だとも私は思ってはいなかった。
ソレも他人が生き残る為に構築したシステムの一つだからである。そう考える私自身も矛盾だらけの存在なのだろう。
或る日の事だった。直径10センチ程の隕石が東京へと落下した。隕石落下による直接的な被害は無かったのだが…。問題は、その隕石の内部に存在していた未知のウィルスにあった。後に【KARMA】と名付けられたそのウィルスの感染症状は大きく分けて4種類に分類されるらしい。
①人間の形状を失い、内に秘めていた欲望を具現化した様な怪物へと変異する症状。
②その人間が抱えている心の闇が異能力として発現する症状。
③強大な異能力に耐えられず、眠りから目覚める事の無い植物状態になる症状。
④無気力となり生きながらにして死んでいるかの様な症状。
【KARMAウィルス】は人の心の闇に反応した。だからこそ世界中に蔓延する迄に、然程時間は要さなかったのだろう。【KARMAウィルス】は人類の機能を奪い去った。法も。秩序も。道徳も。何の意味も成さなくなってしまったからだ…。
だからこそ…。
だからこそ私は歓喜に震えた。
漸く…。
私が…。
私らしく生きられる世界となったからだ。