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巫蠱の儀⑥


 ソレを人間でやるんです。


 西街区を出てから二日後の事。ようやく、月執は目的の場所に辿り着いたのだった。しかし月執の予想に反して、異様な光景が眼前にはったのである。いや、祭典と云う名のイメージ的には相応しいのであろう。殺伐とした雰囲気はまるで無く、華やかな賑わいを見せていた。街行く人を眺めると、皆が一様に幸せそうに笑っている。


 「いや…。」

 月執は何かを感じたのか、もう一度よく街行く人を眺めた。


 「笑っているのではなく。何方どちらかと云えば嗤っているって感じかな…。」


 月執の脳内には漢字が構築されていく。同じ発音であっても漢字が変われば意味が変わる。【笑う】は共感や楽しさと云ったニュアンスがあり、【嗤う】には皮肉や軽蔑のニュアンスがある。だとすれば街行く人は己以外を軽蔑している事になるのだろうか…。


 「それともグリマスに近いのかな…。」


 グリマスとは歯を見せた笑顔に見える表情なのだが、自分よりも強い者に対して敵意が無い事を示し、恐怖或いは服従の表情と云われている。


 「どちらにせよ。ネガティブな意味合いになるよなぁ…。」


 月執はもう一度、街行く人を眺めた。


 「あぁ。そうか…。あの人達は何かに縛られているのか…。笑わざるを得ない状況って感じだな…。可哀想に…。いや…。あの人達には、ソレが幸せなのか…。」


 その様な事を月執が考えていた時だった。自棄やけに綺麗な聲が月執の耳に触れた。


 「貴方は胎天地心教の方ではない様ですね…。儀式の見学に来られた方ですか?」


 月執は聲が聞こえてくる方へ顔を向ける。月執の瞳に映し出されたのは和服に身を包んだ中性的な人物であった。


 「どうも。祭典が開祭されると聞いて見学に来たんですよ。ん?儀式って何ですか?何かやるんですか?」


 「えぇ。【巫蠱の儀】が開かれるのです。」


 中性的な人物は綺麗に微笑む。


 「巫蠱の儀?」


 「はい。巫蠱の儀です。胎天地心教では新たなる世界のいしずえを創る為に、御神体を降臨させる為の依り代を選ぼうとしているのです。その依り代を選定する為の儀式とでも云いましょうか…。」


 中性的な人物は一度、天を仰ぐ。そして…再び言葉を紡いでいく。


 「そうですねぇ…。呪術の蠱毒は御存知ですか?」


 「あぁ。聞いた事あります。小説とか漫画の知識程度ですけど…。確か…。壺の中に有毒な生物を閉じ込めて、互いに殺し合わせ、最後に生き残った生物の毒を用いる古代の呪術でしたっけ?」


 「えぇ。よく御存知で…。そうです。今回開祭される儀式では…。ソレを人間でやるんです。」


 と、中性的な人物は嗤った。

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