巫蠱の儀⑤
君は、ある種の化け物だ。
西街区の門を潜ると、月執は九条から聞いた情報を脳内で整理しながら、更に西へと歩みを進めていた。この様な世界へと変貌する前、その場所は規模のある刑務所だったとの事だ…。
「にしても宗教の施設が元刑務所とはねぇ…。」
刑務所。法令に違反し、裁判の結果、刑罰に服する事になった受刑者を収監し就職訓練等の処遇を行う刑事施設。
「拘置所じゃないのが残念かな…。」
拘置所。未決拘禁者、死刑確定者を収容する法務省の施設等機関。 また、拘置所内の経理作業等を刑務作業とする懲役囚、刑が確定した既決囚も収容されている。
「死刑囚がどんな【咎】を発現させたのか…。ソレには興味があるんだけどなぁ…。強力な【咎】なら見てみたいけど…。」
都外の風景は殺伐としていた。瓦礫、廃墟、遺体。世界の名残が其処には在った。退廃的な饐えた匂いが立ち込めている。黄昏時の赤い闇が尚の事、退廃的な光景を際立たせていく。
「で…私に何か用?」
と、月執は振り返った。
黄昏は誰そ彼…。
この時刻は特に人の顔が見分けにくい。
「いや…。特に君には用は無いかな。向かう方向が同じってだけだよ。僕は、この先にある元刑務所に用事があるんだ。後ろが気になるのなら僕が先に行くよ。」
酷く落ち着いた聲だった。
「君みたいな女性が一人で歩いてるのは危険かなって思ったけど…。」
その男性は月執を一瞥すると…。
「心配要らないみたいだね。」
と微笑んだ。
「僕は君を一度だけ視た事がある。君は、ある種の化け物だ。大概の事なら一人で何とかするだろ?」
と月執の横を通り過ぎる。
そして…。
「君の向かう先が僕と同じ場所じゃない事を願うよ。」
と云った。




