監視者と所在無き風船④
まるで人間みたい…。
【所在無き風船】は行き場所さえ無くした。何も云わず何も抵抗せず…。その場に泣き崩れている。
「リョウが生きられるなら…。私はどうなっても良い…。」
【所在無き風船】の傍らで…。片山が憂いのある眼差しで見下ろしている。頭では拒んではいるモノの肉体は無関係に動き出し、右の拳が振り下ろされた。【所在無き風船】の左頬から鮮血が舞い上がる。
【咎】にも血が通っているって本当だったのね。まるで人間みたい…。と姫川は小さく呟いた。
片山の頬は返り血と涙で濡れていく。嗚咽が漏れ出ても尚…。肉体は【ディストピア】には抗えなかった。
『何故…。愛した人を二度も殺さないといけないんだ…。誰でも良い…。教えてくれ…。僕が何をしたと云うんだ…。』
そう…。心が叫ぶ。
その心を抱く様に…。
【所在無き風船】は言葉で抱きしめた。
「大丈夫。貴方は何も悪く無い。」
『遊?』
「そう。ゴメンね。私が悪かったの…。貴方に振り向いて欲しかっただけ…。あの時みたいに…。癒して欲しかっただけなのよ…。」
『あの時みたいに?』
「傷を舐めて欲しかったの…。」
気持ち悪い。と姫川が言葉を吐いた。
「もう御仕舞にして良い?」
姫川は片山を視る。それから【ディストピア】の能力を解放した…。片山は獣の様に吠え、力任せに幾度となく【所在無き風船】へと打撃を与えたのだった。拳が紅く染まっていく。ドガッとした音が…。軈てグチャリとした音に変わっていった…。
「聞こえる?」
姫川は問う。
「私嘘が嫌いなのですけれど…。一つ、忘れていた事が有りまして…。【コレは殺し合い】でしたね。片山様を殺さなければ駄目でした…。不条理でしょう?理不尽でしょう?抗う事も何も出来ずに…。貴方は、ただ眺めるだけ…。」
【所在無き風船】は微かに震えていた。
【ディストピア…。】
片山は空に浮かんでいく。
姫川は【所在無き風船】の傍に…
しゃがみ込む。
そして…。
「私の【ディストピア】の能力の一つ。奇しくも片山様の能力に似ているんですよ…。肉体が膨らんで…。弾けて…。一欠片の肉片も残りません。」
と耳元で呟き…。
バチッ。と両の手を合わせた…。




