揚羽と罪人②
ジシアノアセチレンとオゾン…。
ゴウッと音が爆ぜた。爆炎が白鷺の肉体を形成していった。炎の性質と色彩を変化させ、無機物と有機物を彷徨い歩く。其処には理屈も原理も常識すらも無くなった。炎の熱が凝縮していく…。白鷺の体温だけが約5800°Cの高熱を発していた。
「ジシアノアセチレンとオゾンの混合炎。此れは化学反応による燃焼で…。約5800°Cにも達する。つまり太陽の表面温度をも超える温度…。」
白鷺の廻りには一切の熱は無い…。
「私の炎は…。何れ太陽すらも超越する…。」
白鷺の背に鮮やかな色彩を纏った翅が現れる。空を舞う白鷺の肉体は揚羽蝶の形態と人間の姿が混合している。その複眼は大きく、その中では数え切れない数の人の瞳孔が蠢き、翅を動かす度に火の粉が鱗粉の様にヒラヒラと空を漂った。
月執は地面に拳を叩き付けた。ドガッと音がして地面は崩れる。そして…瓦礫を掴んだ。
「さて…。灰谷玲央が取った戦法は通用するのか…。」
月執は瓦礫を放る。放った瓦礫が白鷺の肉体に弾着すると…。ジュッと音と共に瓦礫は消滅した。白鷺の口角が上がる。
「まぁ。そうなるよな…。それにしても…。」
月執はそう云うと…。
白鷺の姿を観察した。
【あの翅の柄は…。雌雄嵌合体?特徴からは…。オオムラサキ?マジか…。】
雌雄嵌合体…。生物に於いて、一つの個体に雄の特徴と雌の特徴を持つ部分が、明らかな境界を持って混在している事。モザイク状態とも云う。
オオムラサキ…。圧倒的な力強さと気性の荒さで【最強の蝶】とも称される日本の国蝶。
貴方も【咎】を使ったら?そう云った白鷺は音を轟かせ、高速で滑空していった。
月執は小さく呟く…。
【貴方は私よりも遅く。】
【そして…。私よりも弱い。】
月執の瞳は…。
白鷺の動きを完全に囚えた。




