エピローグ
orz まあエンディングだし…と言い訳(汗)…いつになく構成が崩れまくった…
◆終話
── デュリサは『護国巫女』となり帝国宮廷はひとときの静かな平和を享受した。彼女は帝国の災害と未来を守り続けるために尽力した ──
養父ジャック・アウグスタ将軍が亡くなったのは、デュリサが帝国に来てから24年目が経った頃だ。51歳という若さだったが、戦場で受けた古傷と流行り病がもとで静かに息を引き取った。
葬儀にはフェブルス自らが参列し、帝国史上最も偉大な将軍の1人として国葬が営まれた。
ジャックは最期まで独身を通し、デュリサを実の娘として可愛がり続けた。彼の死後、新たな将軍にはテンバ一族の中の若き有望な青年が継いだ。
デュリサは養父の遺志を継ぎ、帝国の改革にさらに尽力することになる。
それと、デュリサが誰をも選べる立場にありながら、誰とも婚姻を結ばなかったのは、ノーヴァの占いで、巫女の力が無くなると警告してくれたからだ。
しかし、実際には力が無くなるわけではないが、15歳から成長しなくなった特異な存在になったことを、ジャックを含む皇族や、メイとノーヴァ以外には説明しようがなかったためだ。それを秘匿するために、ノーヴァが自ら率先して、方便で済ませようと提案してくれたおかげでもある。
「将軍様は、あなたがこの帝国の光だと常々おっしゃっていました」
侍女のメイが涙をぬぐいながら言った。彼女はすでに40歳を過ぎ、夫ラリイとの間に3人の子供をもうけていたが、デュリサの側に仕えることをやめなかった。
「メイ姉、あなたももう少しは休んでね」
「とんでもありません。私がお側を離れることなど……」
メイの目には、孤児院時代から変わらぬ忠誠心が輝いていた。
*****
時は流れ、実権は既に皇太子ジュニアに移っていたが、皇帝フェブルスは50歳を境に正式に帝位を譲ると、皇后クレセントとともに静かな余生を送った。2人は田舎の離宮で、まるで若い恋人たちのように手を繋いで散歩する日々を過ごしたという。
皇帝ジュニアは皇后ユーノとともに善政を敷き、デュリサの提案した学校制度や医療改革をさらに発展させた。皇帝夫婦2人の間には6人の皇子皇女が生まれ、帝国の未来は盤石と思われた。
もちろん、彼ら兄弟姉妹の誰もが、新たな皇太子となった兄を支え、決して血で血を洗う愚かな内乱など起こさず、その結束力はフェブルス兄弟と同じくらい固い絆となった。
宰相マーティン大公は、猛アタックでフルール・ウォング伯爵令嬢に陥落され、年の差婚を成就させた。愛する妻となった彼女との間に4人の子をもうけ、74歳でこの世を去るまで、孤児院の設備や人員の拡充、貴族派閥と皇帝派閥の調停などに尽力した。
また、彼の子たちももちろん、全員王位継承権を放棄し、皇族としてより、むしろ臣官や情報屋や影として帝国を屋台骨からも裏からも支える職に就いた。
彼の葬儀には、政敵だった貴族たちさえ涙を流したという。
大神官ジョニー伯爵は、神殿改革を成し遂げ、82歳で天寿を全うするまで、終ぞ誰とも婚姻を結ぶことはなかった。
しかし、彼の信仰心と教えは後輩の神官を始めとする後進たちに受け継がれ、彼の推進した病院網やその理念は、帝国全土だけでなく各国の神殿の神官たちを通して広がり、多くの子供たちの命が救われることになった。
皇女エイプリルは周辺国の1つと同盟を組むために政略結婚を果たしたが、幸いにも相手国の王子は彼女の好奇心旺盛な性格を愛し、2人は学問と芸術の保護者として名を馳せた。年に1度、帝国を訪れるエイプリルは、いつもデュリサに最新の本や発明品を持ってきてくれた。
「デュリサ、これ面白いですよ! 遠くの声が聞こえる機械なんですって!」
彼女の目は、いつも少女のように輝いていた。
*****
デュリサの未来予知は、帝国の平和が少なくともあと500年は続くことを示していた。
周辺国との関係は安定したが、逆にセプテン王国は『因果応報』の力によって内部分裂を起こし、近隣諸国に併合・吸収されていった。かつてデュリサの故国デューク天龍国を滅ぼしたその国は、自らの悪行が巡り巡って自滅するのを、デュリサの目で見届けることになった。
ディセント皇国とは技術交流が続き、帝国の学校制度を参考にした教育機関が設立されるなど、文化面での発展が続いていた。
*****
帝国暦未明。
皇帝ジュニアの息子が新皇帝として即位し、その40年後、引退していた先帝ジュニアが静かに息を引き取った。
その葬儀の日、デュリサは気づいた。
「メイ姉……?」
側にいるはずのメイの姿がない。
慌てて彼女の住まいに向かうと、87歳となったメイがベッドで安らかな眠りについていた。夫ラリイは3年前に他界しており、子供たちはそれぞれの家庭を持って離れていた。
「デュリサ……様……」
かすかな声が聞こえた。
「メイ姉!」
デュリサが手を握ると、メイはかすかに微笑んだ。
「ずっと……お側にいられて……幸せでした……孤児院で……初めて会った日……銀色の髪が……とても……きれいで……本当に神の御使いの様で……」
その言葉を最後に、メイの息は止まった。
デュリサの頬を涙が伝った。心を読む能力を持つ彼女は、メイの心の中に揺るぎない忠誠と愛情が満ちているのを感じ取っていた。
*****
ノーヴァは相変わらず聖女の森に住み、時折帝都を訪れてはデュリサと魔法や予知について語り合った。彼女の外見は相変わらず20歳のまま変わらず、その秘密を知るのは未だに契約を結んだ皇帝だけ。
「あなたもそろそろ、この地から去る時が近づいているわね」
ある日、ノーヴァはデュリサに言った。
「この地に、私のことを知る者は少なくなってきましたから」
「それが自然なことよ。私たちのような存在は、長く同じ場所に留まりすぎてはいけないの」
ノーヴァの赤い髪が風に揺れた。
「でも、あなたがこの帝国にもたらしたものは消えない。孤児院、学校、病院……それに人々の心の中の希望」
しかし、彼女の心の奥には、常に一抹の寂しさがあった。
彼女を帝国に連れてきた経緯を知る者は、もう誰もいなくなっていたからだ。
オクト属国は、賢君と呼ばれた若きシセル王が数十年は何とか治めていた。が、彼が病に倒れて共和制に移行するために普通の平民として生きると宣言して玉座を降り、国民たちに国を解放した。その後、静かに滅びの道を向かっていった。関係者たちも散り散りになっていった。
神龍国について知る者たちも、ほとんどがこの世を去っていた。
デュリサ・アウグスタ、否、デュリサ・デュークという少女がどこから来たのか、なぜ彼女にこれほどの力があるのか ── その真実を知る者は、ノーヴァ以外では、今や彼女自身と、内なる銀色の天龍デュークロードだけしかいないのだから。
*****
ある晴れた日、デュリサは帝都の城壁の上に立って、遠くの山々を見つめていた。
《寂しいか、デュリサ》
(かもね、少しだけ。でも、大丈夫。ここには将軍だった父上がいる。メイ姉がいる。ノーヴァ師匠もいる。そして……)
彼女は自分の胸に手を当てた。
(デュークロード、あなたがいる)
風が銀髪を揺らし、異色瞳が優しい光を宿す。デュリサは微笑んだ。
前世の銀野司としての人生。
デューク天龍国の末姫としての生い立ち。
聖域で心身を癒すために過ごした約1年。
元オクト小国の孤児院で過ごした平凡な日々。
その後オクトの王宮での短い数か月。
そして今、アウグスタ帝国の養女としての日々 ──
── すべてが彼女を形作っていた。
「私はかつては銀野司だった。しかし今世ではデュリサ・デュークであり、デュリサ・アウグスタとなった神龍の巫女だ。これからも、この国を、人々を守り続けます」
その誓いは、そよ風に乗って、帝国の空へと消えていった。
*****
メイの葬儀から1か月後。
デュリサは帝都を静かに去った。彼女のことを知る者はもうほとんどいないのだから。
外見上はやっと15歳になったとはいえ、ほとんど成長しない彼女をかつての『神龍の巫女』と認識できる者は、この帝国にはもはや誰もいない。
*****
聖女の森にたどり着くと、ノーヴァが待っていた。
「来るのが遅いと思ったわ」
「いろいろ……整理する時間が必要でしたから」
「ここからもとうとう去るのね……帝国に再び災いが訪れ、神龍の巫女が必要とされる時が来るまで」
「ノーヴァ師匠もご壮健で」
「さあてね。貴方や私たちの様な存在が、本当に必要とされることのない世の中の方が、人にとってはいいのではないのかしら? まあ私は、人の世にかかわり過ぎたし、人が好きだからね」
「その気持ち、とてもよくわかります。でも私は、十分に異世界を堪能することができました。次に人の世に来るときがあるとしたら……
あ!
でも1つだけ。
神龍の巫女なんて、まるで神様の使いみたいな大層な言われ方は、ずっと恥ずかしかったんだよね。それに、私と共にいる銀色の天龍の事も、みんなに忘れずに知っててもらいたいんだ。だから、もし後世に私の記録を残す必要があるなら、『銀竜の巫女』とでも記しておいてもらえないかな?
師匠にこんなお願いを頼むのは……申し訳ないけど……」
「ふふふ。構いはせんよ。私にとっても、最初で最後の弟子になるかもしれない可愛い子からの最期の頼みだ。必ずや記録には『銀竜の巫女』の名を刻ませよう」
「よかった。ではね師匠……」
《よく休め、我が半身よ。お前の夢の中に、我はいつもいる》
「……デュークロード……みんな……ありがとう……」
デュリサの目がゆっくりと閉じられる。銀色の髪が微かに輝き、異色の瞳の光が次第に弱まっていく。
彼女の心の中には、数十年にわたる記憶がよみがえっていた。
養父ジャック将軍の厳しくも温かい笑顔。
メイのいつも心配そうな表情。
辺境公爵の城砦の騎士達。
皇帝フェブルスと皇族たちの信頼に満ちた眼差し。
ノーヴァの不思議な微笑み。
孤児院の子供たちの笑い声。
改革によって救われた人々の喜びの涙。
すべてが、色あせることのない宝物として彼女の心に刻まれていた。
「さようなら……私の愛した人々……」
最後の囁きとともに、デュリサの意識は深い眠りの中へと沈んでいった。
彼女の周囲が微かに光ると、周囲の自然が優しく彼女を包み込む。木々のささやき、小川のせせらぎ、風の歌声 ── すべてが彼女の眠りを守る子守唄となった。
ノーヴァは人ならざる存在しか立ち入ることのできない聖域へと姿を消したデュリサの残り香の前で、しばらく立ち尽くした後、そっと呟いた。
「安らかにお眠りなさい、太陽と月の瞳の銀龍の巫女よ。あなたの目覚めを待つ日まで」
ノーヴァは森を出ると、聖女の森の入り口にいままでよりさらに強力な結界を張った。ここはもう、誰にも邪魔されることのない聖域となった。
*****
時は流れ、帝国は繁栄を続けた。
ジュニアとデュリサたちが築いた学校はさらに発展し、彼女が導入した医療制度は多くの命を救い続けた。
孤児院と福祉施設は更なる発展と拡充により、専門学校の原型までもが形作られ、どんな境遇の子供にも機会が与えられる社会として実現していった。
人々の記憶から『銀龍の巫女』の具体的な姿は次第に薄れ、伝説となっていった。しかし、銀髪に異色の瞳を持つ少女が帝国を救い、繁栄の礎を築いたという物語は、親から子へ、子から孫へと語り継がれていった。
宮殿の記録庫には、デュリサ・アウグスタに関する詳細な記録が残されていたが、時とともに歴史の1部として静かに眠ることになる。
ただ、ごく稀に、聖女の森の近くを通りかかった旅人が、微かな光と優しい歌声を聞いたという話が伝えられることがあった。それはまるで、深い眠りについた何かが、まだこの世界を見守っているかのようだと。
そして人々は知らずにいた ── いつの日か災いが再びこの地を訪れ、帝国が真の危機に直面した時、あるいは神でも悪魔でもいいからと救いを求める声が届いた時、聖域の眠りから目覚める銀髪の少女が再び現れるだろうことを。
その日まで。かつては銀野司の記憶を持つデュリサ・デュークであり、デュリサ・アウグスタとなった銀龍の巫女は、静かに夢を見続ける。
かつて出会い、愛し、守ったすべての人々との思い出の中で ──
END
デュークロードが意外とお喋り好きだったのか。空色~では、長い年月一緒にい過ぎて飽きちゃって無口に?そう、今回の話、実は空色~の過去話だと気付いた人は、いるかな、たまに外界が恋しくて出てきたくなっちゃったんだね…え?知らん?しょんなあ…デューがただの変で不思議な子で終わったので、このエピソードで補完できたのではないかと?…
ただねえ…銀龍が意外とお喋り好きで勝手に占い師と結託して暴走しそうになるし。
オクト王国は王女だけだったはずが、幼い王太子を急遽用意させられるはめになるし。おかげで少しはあの国も属国になったけどなんとかなったのかな。
メイ姉は前半で消える脇役でただのモブの筈だったのにデュリサに勝手についてきちゃうし…おかげでデュリサの余生はデュークロードとノーヴァ以外では孤独に生きることにならず寂しくなかったみたいだが…
宰相は王族争いを減らすために独身で終わるはずだったのに、優秀な血筋残さないとダメ!と影兼伯爵令嬢が(本当は名前すらなかった婚約者候補の1人が)、ほほお君までそんなことしちゃうの?ねえねえ?
と、色々想定外もあったけど、最初から決めていたデュリサが消えるラストシーンまでなんとかたどり着けて良かった良かった…のか?…
m(_ _)m 拙い架空話を最期までお読みいただき本当にありがとうございました。




