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1、プロローグ

(;^_^A 初めましての人、久方ぶりの人、閲覧ありがとうございます。ひっそりこっそりお恥ずかしいですが、ご興味のある人は読んでいただけたら嬉しいです。

今回の作品も遅筆なため、水曜日の日付変わる0時に投稿できるように頑張る予定です…予定は未定(涙…


◆序話



 なーろっぱ異世界の、魔獣がいて、少しだけ魔法がある、そんなある星の中の大陸にある国々でのお話。






 アウグスタ帝国の東部国境にそびえる、長きにわたり眠り続けてきた休火山・マヌス山に、ある朝、不気味な煙が立ち上り始めた。


 最初はほんのわずかな蒸気のように見えたが、三日も経たぬうちにそれは灰色の太い柱へと変わり、山頂一帯を覆い隠すほどになった。それと同時に、帝国全土で微細な地震が頻発するようになる。食器棚のガラスがかすかに鳴る程度の揺れから始まり、次第に書棚の本が落ち、壁にひびが入るほどの規模へと増していった。


 帝都アウグスタニアの宮殿では、代々の皇帝の容姿を受け継いだ黒髪と碧眼を持つ、40歳になる皇帝フェブルス・アウグスタが重臣たちを集めて緊急会議を開いていた。


「報告によれば、マヌス山周辺の村々では既に住民の避難が始まっている」


 兄と同じく黒髪と碧眼だが、容姿は母親似の、36歳になる宰相マーティン・アウグスタが羊皮紙の報告書を掲げながら述べた。


「しかし、問題はこれが単なる火山活動なのか、それとも何か別のものなのかだ」


「占星術師たちは何と言っている?」


 皇帝が問う。


 やはり兄達と同じ黒髪に母親譲りの緑眼で、容姿は父母どちらも受け継いだ、33歳になる大神官ジョニー・アウグスタが前に進み出た。


「星々の配置に異変は見られませんが、大地の精霊たちが騒いでいるという報告が各地の神殿から寄せられています。これは自然現象というより、何かが目覚めつつあるのかもしれません」


 その時、議場の扉が開き、一人の女性が静かに入ってきた。


 深紫色のローブに身を包み、赤髪が肩まで流れ、遠くまで見通すかのような銀色の瞳。20歳くらい?それとも何十歳も年老いているのを何か奇妙な力が働いているようで、60歳を超えているようにも感じられるが……年齢不詳のその女性は、帝国で最も高名な占い師であり、聖女とも噂されるノーヴァであった。


 普段は帝国中央の聖女の森と言われる、選ばれた者以外何人も立ち入ることのできない森に隠遁生活しながら、時折近くの街に薬を売りにきたり、悩み苦しむ者の指針の相談に乗るとも言われている。


 皇家とは、特殊な契約で繋がり、皇帝が重大な決断を強いる時に、その呼びかけにだけ今の様に即座に応じて、いかようにして現れるのかいまだに謎なのだ。


 その彼女の出現に、場の空気が一変した。


「陛下、お許しを」


 ノーヴァは深々と頭を下げると、水晶玉を抱えたまま皇帝の玉座へと近づいた。


「私は三日三晩、マヌス山の異変について瞑想を続け、ついに啓示を受け取りました」


「早く申せ」


 皇帝の声に緊迫感が走った。


 ノーヴァは水晶玉を掲げ、その中に渦巻く霧のようなものを見つめながら語り始めた。


「これは単なる火山噴火の前兆ではありません。古代に封印された『大地の怒り』が再び目覚めようとしているのです。記録によれば、千年前、同じ現象が起こった時、大陸の三分の一が灰に覆われ、文明は一度滅びかけました」


 議場にどよめきが起こった。


「しかし」


 ノーヴァの声が場を静めた。


「その時、一人の巫女が現れ、災いを鎮めました。『運命の女神に選ばれし神龍の巫女』。

 彼女だけが、目覚めつつある大地の怒りを鎮め、崩れゆく均衡を取り戻すことができます。その力は、神龍の加護そのものです」


 ノーヴァの言葉に、一同が息を呑んだ。


「その巫女は今どこにいる?」


 これまた父親似の黒髪碧眼の、21歳になる皇太子ジュニアが身を乗り出して尋ねた。


 ノーヴァの銀色の瞳が、かすかに悲しみの色を宿し水晶玉の深くへと吸い込まれていく。


「彼女は……帝国にはいません。北東の方角、国境を接するオクト小国にいるように感じます」


「オクト小国だと?」


 皇太子ジュニアが声を上げた。オクトは、アウグスタ帝国とは長年にわたり、領土問題や通商路を巡って緊張関係にある小国だった。外交交渉はことごとく決裂し、現在はぎりぎりの平和が保たれている状態である。


「あの辺境の地か」


「正確には、オクト小国の中心部……おそらく王宮に……その力が強大過ぎるのか、または隠しているのか……我が異能の力をもってしてもはっきりと判別できませぬ……」


 ノーヴァの声が珍しく自信なさげだ。


「神龍の巫女は、世を照らす太陽のように輝く髪に太陽と月の光の瞳を持ち、彼女の血には古代の契約が流れており、龍と対話できる力を持っています」


「ならば急ぎ彼女を見つけ出し、帝国へ連れてくるのだ」


 皇帝が命ずる。


 宰相マーティンは眉をひそめた。


「オクト小国は、我が国との関係が極めて悪化しております。巫女の引き渡しを正式に要求したとして、応じる可能性は……極めて低いでしょう。」


 再び沈黙が訪れた。皇帝フェブルスの碧眼が、玉座の肘掛けを握る拳の上で険しく光った。先代から受け継いだこの帝国を、自然の脅威の前に無力なまま滅び去らせるわけにはいかない。民を守り、帝国の繁栄を維持する ―― それが皇帝としての責務である。


「……交渉が通じぬならば、力に訴えるしかあるまい。」


 皇帝の低い宣言が、広間に冷たい決意を落とした。


「交渉が難航する場合は、望み通りオクトに対して最後通牒を突きつければいい。神龍の巫女を我が国に差し出さぬならば、その結果は戦争であると。帝国の存亡がかかっている。手段を選んでいる場合ではない」


「陛下!」


 大神官ジョニーが声を上げたが、皇帝は手で制した。


「全軍に準備を命じよ。国境の軍団を強化し集結させろ。そして ――」


 皇帝の目が、玉座の間の隅で、これまで一言も発していない一人の人物に向けられた。


 黒髪に、現在の帝国の皇族では誰も持たない不思議な空色の瞳を持つ男。顔つきや全体的な特徴は、長兄であるフェブルスや歴代皇帝によく似ているのにも関わらず、瞳の色だけが先代皇族以前の隔世遺伝かと言われている。


 四男で公爵、将軍の位にありながら、早くに王位継承権を放棄し、今年で27歳になったジャック・アウグスタである。彼は常に飄々としているが、戦場では『黒き雷光』と恐れられる帝国随一の戦術家だった。


「ジャック。お前がこの任務の指揮を執れ。巫女を探し出し、帝国へ連れ帰るのだ。手段は問わん。成功させよ」


 ジャックはゆっくりと顔を上げ、皇帝を見つめた。その空色の瞳には、複雑な感情の影が一瞬よぎったが、すぐに消えた。彼は深く一礼した。


「恐れながら陛下。その間セプテン王国がまたやっかいな小競り合いを仕掛けてきましたら? 自分がいないと知られれば、今度こそ大掛かりな戦に発展されるやもしれませぬが?」


「ノーヴァ」


「はい、陛下。将軍閣下の心配事も当然かと存じます。


 ですがご安心召され。この私の能力をもってして、セプテン王国は、10年前までに、七匹の神龍たちが守る七つの小国のいくつかに戦を仕掛けたせいで、未だその爪痕が癒されておられませぬ。帝国の災害の被害が広がる半年ほどは、何とか持ちこたえられましょう」


「なるほど。言われてみれば確かに。ここ数年は小さな喧嘩の延長程度の小競り合いしか起きておらぬし、おかげでジャックを行かせるまでもなく、国境の砦を守る騎士団長たちだけで何とかなっておるわけだ。


 ならばこそ、ジャック。オクト小国への遠征は今が好機だ」


「御意にございます、陛下」


 その夜、ジャックは少数の精鋭を連れて帝都を発った。馬車の窓から振り返る帝都の影に、マヌス山から立ち上る不気味な噴煙が重なって見えた。


 戦争の足音が、アウグスタ帝国の北東の地平線から、ゆっくりと、しかし確実に近づき始めていた。すべては、太陽と月の光の瞳を持つ一人の少女 ―― 神龍の巫女のために。


 皇帝フェブルスが玉座の肘掛けを握りしめた。






     *****






 一方、オクト小国の王宮の一角で、一人の若い女性が佇んでいた。輝く長い髪は風になびき、太陽の様に光る瞳と遠くまで見通すかのような悠久の英知を秘めた瞳は遠くの山々を見つめている。


 少女は突然、胸に手を当てた。心臓が激しく鼓動し、耳元で誰かの呼び声が聞こえるような気がした。それは遠くから響く、古い歌のような、大地の咆哮のような……


 南西の空が不気味な赤みを帯び始めていた。マヌス山の噴煙が、ついに夕焼け雲をも染め始めていたのだ。


 少女は知らなかった。彼女の平穏な日々が、今、終わりを告げようとしていることを。そして遠くから、運命を変える一人の将軍が、彼女を探してこの地へと向かっていることを。


 大地は深く唸り、神龍の巫女を待ちわびていた。






 *****


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