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7 お見合い③ ~「あの医師はぜったい駄目っ!」~

突如、お見合いの席で奇声をあげるエランダ・ミンス。


カインとケットナーは唖然とするが…


「若候。口が開いております」

「あ、ああ」


 いち早く、我を取り戻したのはケットナーだった。

 見合いの席で突然叫び、意味不明なことを言ったエランダに、彼はさして動揺もなく。「さすがは士爵の娘。こうでなくては」と、すぐに自分を取り戻していた。


「若候。彼女は伯爵家に婚姻を申し入れた無謀を今、宮殿を目にして実感し、混乱したのですよ」

「そんなこともあるのか」

「ええ、何を隠しましょう。私も庶民と変わらぬ出自ゆえ、エランダ嬢の混乱ぶりはよくわかります。ご覧ください」


 ご覧ください、と俺の傍らに立つケットナーは掌で、いまだ混乱中のエランダを示す。


「えええっと。私は、ツウキンしていて。で、クルマに乗って……。ああ、いやいやいや。違う違う違う。ケータイでヤバい小説読んで、若候の哀れさに泣きながら…………そしたら階段で滑って転んで……」


 すごい混乱ぶりだ。

 何を言っているのかわからない。彼女は自分の頬を挟み、あたふたしていた。


「あの取り乱し様は士爵家ならではのモノ。下々の者の行動としてなんら不思議はございません」

「そ、そうか。そうだな。つい忘れていたが、婚姻は一生に関わることだもんな」


 人には奇抜なところがあるのは知っている。

 何もない床(・・・・・)で転びまくっていたメイドもいたのだ。

 俺はしばし、彼女の混乱ぶりを静観することにする。


「落ち着け、落ち着け、私。私はエランダ・ミンス。そう、どっちかと言うと、あっちが転生した姿で、こっちが本来の私。子供の頃から変な夢ばかり見ておかしいと思ってたし、エランダとしての記憶はしっかりあるもの。だからわかる、わかるはずよ」


 エランダは喉のつかえでも取るかのように胸を叩き、それから頭を振っていた。

 ケットナーの言葉を元に解釈するならそれが彼女流の緊張のほぐし方なのだろう。


「ここがフレーテスム宮で、いま侍女が不在。目の前に若候とケットナー様がいる。ということは時はエーテル歴337年、あのシーンだわ」


 奇抜な仕草ダンスをし終えて、リラックスできたのか、エランダは深呼吸をし「よし、状況把握!」とこちらを振り向き、元の正しい姿勢に戻った。


「若候様。取り乱して申し訳ございません。もう落ち着きました」

「い、いや構わない。落ち着いたのなら何よりだ。君の侍女が医師を呼びに行ったが、あとで検査して貰うといい」


 俺はできるだけ自分を冷静に保ち、目の前で繰り広げられた彼女の奇行ダンスを忘れ。


「まずお互いの事を知りたい。中断していた見合いを続けてもいいかな?」

「そうですね! 見合い中でした」


 俺はひと呼吸置き、


「エランダ嬢。君は読書をたしなむと聞いたが」

「私の名前は、エランダ・ミンス。ハロルドの州、駐留軍を指揮するミンス士爵家の長女です」

「そこからやり直すのか?」

「ち、違いました?!」


 驚く彼女だが、するとケットナーの「ふふふ」と不敵な笑みを声が聞こえた。


「若候。下々の者は二度、同じことを繰り返して言う癖があるのですよ」

「そ、そうか。悪かった」


 俺は再び狼狽するエランダに気を取り直して――質問はやめる。元々、教科書通りな質問というか、まったく意味のない問いだったからな。

 しかし。俺は彼女の扱う単語に違和感を覚えていた。


「俺を若候と呼ぶのはケットナー以外では初めてだ。エランダ嬢。貴女は俺の事をそう呼べと誰かに命じられたのか?」


 すると「――あ!」彼女は呆けた声を出した。


「ああもう。そうでした。すいません、まだ混乱中でして。カインロッド様では全然しっくりこなくて、つい若候と呼んでしまいました。公爵家の男子ですから」


 すると今度は「フフフフフ」とケットナーが不敵な笑みをこぼす。


「士族の彼女からすれば当然のこと。その通り。若候は公爵家の男子ゆえに【若候】なのです。そう呼ばない者がおかしいのです。エランダ・ミンス。なかなか見所のある御令嬢ではございませんか」

「…………」


 よくわからないが、エランダの体調も優れないようだし「とりあえず、今日の見合いはひとまず中止にするか」と切り出そうとした時だった。

「ああああ!」またもやエランダが悲鳴じみた奇声を張り上げる。


「忘れてたわ。このシーン!」

「な、なんだ」

「若候は先ほど、『君の侍女が医師を呼んだ』って言いましたよね?!」

「あ、ああ。言ったが……。そういえば遅いな」

「あああああ! ミンス家の医師はぜったい駄目っ! ヤバいって!」


 先程から時々、両頬を抑えて天井に向かって伸びあがるみたいな仕草ポーズは何かの儀式か?


「こうしちゃいられない! 急がないと!」


 俺が質問するより早く、彼女はとつぜん席を立って俺の方へとやってきた。「無礼である!」と咎めるケットナーに「どうかお許してください、ケットナー様!」と両手でガードするように彼を制し、

ここ(・・)、めっちゃ大事なシーンなんです!」と俺の方を向き直る。



「よく聞いてください。私は今から逃げます」




お読みいただきありがとうございます。


おもしろそう、続きが気になる、ってなったら是非ブックマークの方もよろしくお願いいたします

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