6 お見合い② ~エランダ・ミンス登場(転生)~
ついにお見合いの場。
初めて出会うカイン若候とエランダ嬢。
だけどエランダ嬢の様子がちょっとおかしい?
――そして午後、妙なことが起きるのである。
「こちらが士爵ミンス家の長女――エランダ・ミンスです」
相手側の、連れ添いの侍女がそう言って頭を下げたが、ケットナーは頭を下げることなく、
「こちらにおわしまするは、テルシムス公国、アルギス家が子息。カインロッド・アルギス様にございます」
尊大な態度で応対した。
(おい、そういうのやめろって言っただろ…)
と、こっそり俺は溜息をつくが、ケットナーの態度はこの国では格下の家に対する一般的な礼儀でもある。
何より、俺の目は応接間に現れたエランダに奪われていた。
見目麗しく、器量もよし。
これはケットナーから先んじて得ていた情報だが、情報よりもずっとエランダは美人だった。
細くすっきりした面立ち、それを彩る亜麻色の長い髪。
まず美人と言って差し支えない女性だろう。
そしてとっても無口だ。
「…………」
無口というか、慎ましやかというか、俯いたまま一向に喋ろうとしない。
名に恥じぬ花のような佇まいは、ただ座っているだけでも十二分に伝わってきた。が、
(いちおう見合いだから何か喋って欲しいな…。俺から何か話さないとダメか?)
エランダは俺と目は合わさず、やや下に俯き加減で、自ら言葉を発する気配は全くなかった。
「その…なんだ」ひとしきりの儀礼が済んだところで、テーブルを挟んで対面に座るエランダに俺は咳払いをし質問をしてみる。
「エランダ嬢はよく本を読むと聞きました。どのような書がお好きなのでしょうか」
「若候、なぜ敬語なのですか」
「うるせーな、黙ってろ」
すかさず耳打ちしてきたケットナーに俺はすかさず小声で返した。
ところが、どうしたことだろう。
エランダは質問に答えるどころか、俯いたまま喋ろうともしなかった。
「申し訳ございません!」と傍らにいた彼女の侍女が頭を下げてくる。
「エランダ様は先ほど、馬車の中でとつぜん眠り。起きてからずっとこのご様子なのです」
それは大丈夫か? と心配する俺とは対照的にケットナーは至って冷静で「無理からぬこと」と急に不遜に笑みを浮かべた。
「若候。これが士爵というものです。伯爵家の者の前で何を喋ることができましょうか。いや出来はしません」
「いや。反語言ってる場合じゃねえだろ。彼女の様子がおかしい。連れてきているなら医務官を呼んできてくれ」
「し、しばしお待ちを!」
エランダ付きの侍女は頭を深く下げ、家臣控室として用意していた房の方へと足早に出て行く。
明らかにおかしかった。
いくら無口でもこれだけ騒げば少しは反応を示して良さそうだが、エランダは俯いたままピクリとも動こうとしない。いや、動かない。ケットナーときたら「ふふふ。恐れ入りすぎて身動きひとつも取れないと見える」などと能天気なことを言う始末だ。
――と。
それは次の瞬間に起こった。
突然、エランダの体が。全身が眩く光りはじめた。
「な、なんだ!?」
「じゃ、若候! これはいったい!」
彼女の放つ光が部屋を真っ白に染め、驚く俺とケットナーはあまりに眩しすぎて目を手で覆った。
「…………???」
が、それだけである。
やがて光は収まり――そしてまたもや突然、
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアッ!」
エランダ嬢が大声を上げて、まるで仰天するみたく、万歳の恰好をした。
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
俺とケットナーはあまりな彼女の奇行に言葉を失ったままで、
「…………あ、あれ? ここはどこ?」
彼女は自分の顔や体を確かめるように触り、それから「ハッ!」として、俺たちの方を向いた。
「ま、ま、ま、まままままさか、貴方はカイン若候!?」
「……………………」
「隣にいるのはケットナー様! ということは、ま、まさかここはあのフレーテスム宮なの!?」
これまでずっと一言たりとも発しなかった彼女の第一声(悲鳴というより奇声)に、しばらく俺は、そしてケットナーも言葉を返せなかったのは言うまでもない。
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