14 イザナム妃とマゼンダ妃 ~決着?~
イザナム妃が耳を貸す。
その対価は高くつく…それを知っているカインの心臓は凍り付く。
公爵の家は治外法権だ。
家を取り仕切る正妻、イザナム妃には生殺与奪の権も親父から与えられているのである。
彼女の耳を拝借する代償が高くつくことは、宮殿だれもが知っていることだった。
だが、エランダ嬢はまったく怯みもせず、言い放つ。
「この国には、婚儀申し入れを許可され来訪した他家には、最大の敬意を示すのが慣わしです。
ですが婚儀取り決めの初日に、【花の路】で御身内を迎え、差を見せつけてミンス家を辱めるとはそれこそどういった了見でしょう!」
すると、イザナム妃は険しく固めていた頬を緩め「……ふむ」と――笑みを見せ――それから「では」とエランダ嬢に訊ね返した。
「ではどうする? 妾たちの無礼を、そなたはどうすると言う?」
「我が家は軍人家系。かような屈辱、恥は許せません。
――婚約申し入れを無かったことにさせて頂きたく思います!」
――――っ!!
エランダ嬢の言葉に俺は驚いた。いや、正確には彼女が宣った言葉に笑みを浮かべたマゼンダ妃の氷の微笑みに。
嬢は知ってか知らないでか、それは殺してくれと言っているのと同意だ。
なるほど……今は【他家の客人】なので無礼があろうと多少は許されるが、婚約申し入れを引き下げれば客ではなくなってしまう。
「フフフ。そういう事ならば仕方ない」マゼンダ妃は荒げかけていた息を整えるかのように言った。
「爵位と呼ぶにもおこがましい士爵からの縁談であるにも関わらず。カイン若候のためと思い、妾が許したもうたというに」
「黙りなさい、マゼンダ。話をしているのは妾、イザナムです。無礼であろう」
「――――!?」
突然のイザナム妃の咎に、今度はマゼンダ妃が押し黙る。
「許したもれ」イザナム妃が席を立ちあがった。
「ミンス家のエランダ嬢。そなたの言う通りだ。妾たちが無礼であった。
カイン若候が我らに厚いもてなしをしようとしたのは慣習であって悪気があってのことではない。
ただ、妾たちは見合いの初日に先方の令嬢が倒れるという前代未聞の報を受けて取り乱し、それでここへ参ったのだ。それは許してもらえるか」
「……では婚姻申し入れはそのままにということですか?」
「嬢の、我が家に婚姻申し入れした気持ちが変わらぬならば、今しばし客人であってほしい。
ろくに言葉も交わさぬ内に見合い相手を追い返したとあってはカイン若候にとっても大きな恥。
後日、ミンス家には妾から謝罪するゆえ」
「御妃様! お待ちを!」
弾けるように言ったのはマゼンダ妃だった。
「このような形になっては、もはや婚姻も何もありませんわ。そもそも見合いの中断という無礼はミンス家が先にございます」
「体調が悪くなったのなら仕方あるまい。死なれて困るといったのはそなたであろう? 見たところ、元気で気丈夫な嬢。健やかなることを見届けた以上、我らが退散するのが筋というもの」
「では嬢の、妾に対する無礼な物言いは許せと?」
「今は私が話している時だと何度言えばわかる! この場で最も無礼なのはマゼンダであろう! 詫びよ!」
「…………くっ」
一連の言葉を交わした後、マゼンダ妃はイザナム妃にドレスのまま――「口が過ぎました」と、膝をついた。
その時――エランダの視線が、マゼンダ妃の握られた拳にいっているのを。俺は何となく見ていた。
「さて。もっとそもそもの話に戻しましょう」とイザナム妃。
「婚姻申し入れを許可したのは私共、本宮殿の者です。ですが、婚約をするかどうか、また婚姻を結ぶか否かはカイン若候に一任した話です。
見合いを続けるかどうかはやはり若候がお決めなさい」
「…………はっ」
俺は肯定も否定もせず、イザナム妃に頭を下げた。
マゼンダ妃を連れ、引見の間を去ろうとする。その去り際だった。
イザナム妃は俺――その隣に立つエランダ嬢を見て。
「持病があると聞いた。発作は収まったのであろうが、我が公爵家の信頼できる医師も派遣しよう。後日、診てもらうと良い」
「………………」
エランダ嬢にイザナム妃はそう告げてから、彼女は足音静かに引見の間を去って行った。
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