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12 イザナム妃とマゼンダ妃 ~命の危機②~

続くマゼンダ妃の小言


カインはエランダの言葉通り、何も答えない


 実に意味不明な返事にイザナム妃はもちろん、マゼンダ妃まで怪訝な顔をした。

 だが、真実でもある。


「わかりません。見合いの最中さなか、彼女は退席しました。病だと聞かされましたがその後どうなったかはわかりません」


「それは異なこと」


 と、横から差し入れたのはマゼンダ妃である。そして一瞬、イザナム妃の頬が歪んで見えた。が、「異なことではございませんか」マゼンダ妃は気づくことなく続ける。


「婚約者のエランダ嬢が倒れたのに、カインさんは何も心配ではなかったのかしら? 様子を伺いにも行かなかったのかしら?」


 マゼンダ妃の問いに俺は返答に詰まる。確かに俺が案じないのはおかしいことだが、はこうも言った。


『――何を問われても』


 の言葉を信じる理由も、従う義理もないのだが――そういうことではなく、今日この日に妃2人がフレーテスム宮を訪れることこそ異例なのである。

 公爵家とはいえ、問い正したいことがあっても他家への礼儀を重んじ、日を改めるのが国の常識だ。

 それを押してでも来宮したということは――気づいてないだけで、俺に何か咎があるのだろう。


「見合いの最中でのあまりな事で、頭が回りませんでした」


「…まあカインさんったら」


 マゼンダ妃は呆れたように大きな息を吐いた。


「女性に対して気遣いひとつ出来なかったと?」


「…………」


わたくしは何もカインさんひとりの御事をたずねているわけではないのですよ?

 もし見合いにおとずれた令嬢が伯爵家の屋敷内で命を落とせば都中に知れ渡る醜聞となるからです。めかけの宮といえど、フレーテスムも屋敷の一部。

そして心配して来てみれば当事者のカインさんが『何もわからない』。それでとおるとお思いになって?」


 正論だったが本当にわからないので答えようはなく、俺は顔を伏したまま沙汰を待つ。


あきれましたわ。何も答えないのですね。それともわたくしを侮辱しているのかしら。御妃様、これは酷い話です」


 いつの間にか、マゼンダ妃の切れ長な瞳はイザナム妃の方を向いていた。


「カインさんのコソコソぐせはいまだ治っていないようですわ。思い出して下さるかしら。いつぞやの【侍女事件】のことです。

世話係の侍女を部屋に連れ込み、はしたない行為に及ぼうとした事件にございます」


「――連れ込み?」


 その言葉に伏せていた顔を上げてしまう。

 俺の目には、険しい表情を崩さないイザナム妃と、マゼンダ妃の氷刃のように厳しい瞳が映っていた。

「ええ」とマゼンダ妃は瞳を鈍く光らせ俺を見据える。


貴方あなたが夜中にコソコソと世話係を私室に連れ込んだ事件ですよ。まさか事件を軽く見ていらっしゃるのかしら? 時が過ぎれば無かった事になると思ってかしら?」


「いえ、覚えております。…しかし、あの時は」


「――あの時は?」


 すると、これまでマゼンダ妃の話を黙って聞いていたイザナム妃が、初めて反応らしい反応を見せた。

 表情をさらにけわしくし「答えなさい」イザナム妃が挑むような眼を向けてきた。



「あの時は? 貴方が連れ込んだわけではないと? 事実は違うと?」


「…………」


「はっきり申しなさい!」



 彼女の言及に俺は固く目をつむる。




お読みいただきありがとうございます。


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