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1 公爵令息カインロッドの処刑 ~ ループのはじまり ~

よろしくお願いします。


「元・公爵家第4子。カインロッド・アルギスを死刑とする!」


 ある晴れた秋の日。

 俺はみやこオーギアルギスの街のど真ん中、民衆の前でそう宣告された。


 横領、領民虐待、公爵子息の立場をもちいた王国軍の私用、領地に対する責任放棄……etc。

 よくそれだけ罪状を並べられたなと感心すると同時に、ぜんぶ本当だったりするから俺は反論もできず溜息をついた。

 だが、それらはぜんぶ一人の女性――妃であるリッスのためだったのだが、政策がことごとく裏目に出たのが原因なのだろう。


(何がいけなかったんだろうな……)


 民衆から「死ね!」「アホ!」「最低領主!」「人でなし!」と泥の塊やゴミを投げつけられながらも、俺は空を仰いだ。

 青い空だった。

 最期に案じるのは俺なんかに嫁いだことで巻き添えになってしまった妻のリッス。

 彼女は死刑は免れたらしいが、どこか遠い地へ流されることが決定していると、牢獄の中で耳にしていた。


「……ま、生きていられるならいいか……」


 そう呟く俺に。


「罪人カインロッド。市中引き回しの上、火炙りとし、その焦げた首を晒す」


 どうやらタダでは殺さないらしい。それほど俺の罪は重かった。

 その時はそう思わなかったが、俺が赴任した土地で、重税に苦しんだ民の恨みが込められていると。

 最後の最期に俺は笑ってしまう。


「罪人カインロッド。言い残したことはあるか」


 という問いに、


「ねえよ……。連れていけ」


 兵士長は国王陛下から――つまり俺の親父から――託された【勅命書】を読み終えた後、鎖で縛り上げられた俺を引きづり始めた。

 俺を罵倒する民衆の声。中には俺が統治していた土地の民も混じっている。俺が処刑されるところを見たくて、わざわざ都までやってきたのだとすぐわかった。

 けれど――。


(何でだろうな……。なんか、これと同じことが前にもあった気がするぞ……)


 優秀な兄揃いな公爵家で唯一無能な4男の俺。

 虐待の日々。

 やっと縁が来たと喜んだ婚約者、エランダ嬢。

 だがそれが間違いだった。小賢しい彼女から受ける数々のひどい仕打ちの日々。

 それを助けてくれたのが、彼女エランダの妹、リッスだ。



 リッスのおかげで俺の人生は変わった。

 彼女の助言が俺を救ってくれた。


『お姉様は、貴方カイン様のことを愛してなどいないのです』

『嘘だろう。そもそも縁談は君達の実家、ミンス家から――』

『ああ、カイン様は世の悪と欲をご存知ないのですね……。姉様は公爵の名が欲しいだけ。嘘だと思うなら明日、お姉様の作る御菓子を食べてみてください』


 ――次の日。

 リッスの言う通り、エランダは菓子を作ってきて……俺を毒殺しようとした。

 毒を混ぜていたからだろう。【菓子作りが上手だと評判な】エランダの作った物とは思えないほど――あるまじき不味さだった。文字通り死ぬほどまずかった。

 リッスの助言があったから俺はすぐ吐き出せた。体内にめぐる毒はごく微量で済んだ。

 健気なリッスがあらかじめ医者を用意していてくれたこともあって、3日寝込む程度で事は終わる。


 しかし次の日からも際限なく、性懲りもなく、看護だ音楽会だと偽ってエランダは俺の暗殺を企ててきた。

(そんなに俺が憎いのか……。そんなに公爵の名が欲しいのか……)

 それでも落ちこぼれと評判な俺と婚約してくれたエランダのことを信じてしまうアホな俺である。

 何度も何度もエランダの罠にひっかかるアホな俺をリッスが助けてくれた。


 それから……そう。

 リッスの助言に従い、ついにエランダと婚約を破棄することに成功して。

 俺はあらためてリッスと結婚することになった。


『リッス。君は俺にとって聖女だ。どうか俺を支えてほしい。もう俺には誰もいないんだ』


 歯の浮くような恥ずかしい台詞だが、これがリッスへのプロポーズの言葉だ。

 彼女は『はい! 喜んで!』と笑顔で受け入れてくれた。

 俺を殺そうとしたエランダは無論、屋敷から追放した。




 リッスと結婚し、親父から任された土地へ赴き、彼女の助けにより俺は人生をやり直せると思ったんだ。




 なのに、突然リッスが急な病に倒れた。

 医者から「治療には莫大な費用がかかる」と言われ……。

 俺は親父から貰った貯金をすべて使いつくし……。


 いや、それだけじゃない。

 それからも何度も何度も災いが起きて。起き続けて。

 ついに民衆の反乱。

 今日と言う命日を迎えたのだ。

 

(だが、どうしてだ。俺がアホ貴族だから死ぬのは仕方ないとして……)


 俺の短い人生が、何度も何度も繰り返されている、そんな気がしてしまう。

 死人が見る最後の幻ってやつだと思うが……この違和感が本物だという証拠に……。

 都内を引きづり回される俺を囲む民衆。

 その中に、の姿があった。

 俺はそこにがいることを何故なぜかわかっていた。


 妻リッスと同じ、亜麻色の髪をした女。

 追放したはずのエランダ・ミンス。

 落ちぶれた士爵家の長女、最初の俺の婚約者。

 俺がした通り、彼女は尼瀬の姿をして。


 だが神に仕える尼瀬の恰好はだ。


 反乱のきっかけは俺にあるにしろ、その口火を切ったのはエランダからだとリッスが教えてくれていた。

 しかし、反乱の元となる横領などの罪状はすべて本物。

 いくらリッスが教えてくれていても、これだけは防ぐことはできなかった。

 ただ彼女エランダは俺への復讐のため、情報を得やすい尼瀬となり、俺の隠していた罪を探っていた。


(そう、そして彼女は民衆にまぎれ、俺の最期を見に来る……)


 その表情は、冷たくも俺を憐れむもの。

 ざまあねえな、と蔑むようで「どうして」と疑問を抱くような不思議な表情で。

 灰色ボロ罪人服をまとう俺と、目が合う。


 それがどうしてだか、過去に同じことがあった気がして、彼女がそこにいるとわかっていた。

 エランダは最後に、刑に処される俺を見て口を動かし、こう言う。



『さよなら……バカなカイン……』



 わざとらしい涙を見て――そうして俺は再び中心部へ戻され、祭壇の上で藁焼きにされた。


「ぐあああ……! 熱い……熱い……っ!」


 いくら最後だと諦め、いくら覚悟を決めても、いくら気取ってみせても、生きたまま皮膚を焼かれるのは地獄の苦しみだった。

 みっともなく民衆の前で火炙りにされてわめく俺に、民衆は歓喜し、兵士長は高々と声をあげる。


「罪人カインロッド! 虐げられた民の苦しみ! その千分のいちでも味わうがいい!」


「熱い……! 助けてくれ、助けてくれ……っ」


「貴様はそうやって助けを乞うた民の言葉を聞き入れたか?! いやそれどころか刃で脅して突き返した!」


「熱い……! 熱い……! リッス……ッ! ……ぁ……っ……ぃ……っ」




 半身が焦げた頃、下から熱せられる空気を吸い込みすぎた俺は。


「………………」


 やがて意識を失いこの世を去った。



 この後は死んだ俺の知るところではないはずだが。

 残った俺の頭。

 見るも無残な俺カインロッドの頭は1週間ほど城門に吊るされた。

 しばらくの間、見物人は絶えなかったという。

 


 公爵家アルギスの落ちこぼれの息子。

 念願の奇跡的な結婚を果たすも、女を一度も抱くことなく(だってリッスがいきなり謎の病に倒れたから)。

 4男カインロッド・アルギスはみじめな人生を終えたのだった。


 ――と。

 死んだ後の話まで俺はなぜか知っていて、だな。


 俺は叫ぶんだ。







    ☆    ☆    ☆







「うわああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 目が醒めると俺――カイルロッド22歳はアルギス家にある自分の部屋、ベッドの上で悲鳴をあげていた。

 とんでもない悪夢を見たからである。

 しかもやたら長い悪夢。

 生まれて死ぬまでの運命ストーリーを描くリアルすぎる夢だった。


「…………はあ…………」


 俺は寝汗に塗れた額を拭う。


「いや、違うな……」


 呼吸を整えながら、俺はゆっくりと朧気おぼろげな夢の内容を反芻し、独り言で撤回した。

 生まれて死ぬまでではなく、今日この日。

 そう、朝、俺は悲鳴をあげて目を醒まし、窓を見るんだ。

 悪夢を見たことが嘘だったような秋晴れの空である。

 雲は公爵家の頭上をゆったりと流れ、それから……そう、そしたら……。

 ――扉がノックされるんだ。


「若候。ご無事ですか?!」





おもしろそう、続きが気になる!

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