決断と結果
その日、楓は家に来なかった。もう何日もこの部屋に入り浸っていただけに何かあったのかと心配だったけど、20時過ぎ、窓から見える楓の部屋に灯りが灯ったことでその不安は払拭された。
なんで来なかったんだろう。
勿論おかしいことじゃない。第三者目線に立てば、こんな奴の部屋に毎日通っている方が少し心配になるくらいだ。
日常に戻った、と考えるのが無難だろうか。
楓が真司と分かれたことを聞いたのは、翌日、俺が教室の扉を開けた時だった。
ーーーーー
「言えたじゃん。凄いよ。」
そう私に言ったのは、クラス委員の如月杏奈。時刻は12時40分。場所は、屋上。
「ここに追いやられちゃったけどね。」
「あなたが来たんでしょ。変わらずあの子達と食べればいいのに。」
「気まずいんだもん。皆んな知ってるんだよ?昨日のことなのに」
「でも、そうなるって分かってたでしょ」
「..まぁね」
杏奈が提案したのは、ただ素直に言うこと。
それをしてあなたが寂しい思いをすることになったら、私が面倒見てあげる。
彼女はそう言った。
「ほんと優しいね、杏奈さん。」
「呼び捨てで言い。長い付き合いになりそうだから。」
嬉しいような、悲しいような。きっと両方だ。cは優しいし、一緒に居て楽しい。
でも長い間あそこには戻りづらいという事実は、やっぱり胸にくるものがある。
「それで?アタック、しないの?」
彼女は床に弁当を広げながら、そう言った。
静寂。風の音どころか、空が動く音すら聞こえる気がする。
「そんな資格はないって、思ってる?」
...お見通しか。
好きな人ができたから、別れたい。そう言った時、やっぱり真司はごねたけど、それでもすぐに、了承してくれた。それも泣きながら。
好きな人が誰かは言わなかった。その人に意識してもらうために付き合った、とも。
どこまで性格が悪いんだろう。人に好意を伝える資格なんて、あるわけがないじゃ無いか。
遠ざかっていく真司の背中を見ながら、そう思った。
ぷふっ、と杏奈が吹き出す。
「あなたって面白いくらいに人間くさいよね。自分のために人を傷つけちゃうところも、それを責めちゃうところも。」
「それって、..褒めてたりする?」
「褒めては無いよ。でも、私はそういう人のこと好き」
「...あっそ」
この子もちょっと、性格悪い。
「でも、好きなんでしょ?」
「まぁね。」
私も座って、弁当を広げる。
関係無いけど、すごく空が綺麗だ。青くて、遠くて、どこまでも遥か。
ここに来なきゃ、これは見れなかったな。