告白される幼馴染と、ある悪意。(後編)
告白を受けてから1週間後。奇跡は、起きてしまった。
私にとってそれは、まさに奇跡そのもので、起こるはずがない誤算だった。
私はどうなってもいい。でも、今私が彼と別れたりしたら、周りは千弥のことをどう思うだろう。どういう風に接するだろう。
その可能性に気づいた時には、全てが遅かったんだ。馬鹿だと思う。千弥と喋れたことがじぶんのなかであまりにも大きくて、幸せで、舞い上がってしまっていた。
もう、戻ることはできない。進む先にあるのは、きっと崩壊だけ。
嬉しいはずなのに、私が作り上げてしまった闇が、全部を飲み込もうと蠢いている。
どうすればいいのか、一体なにが最善の選択なのか、私には分からなかった。
この気持ちを、誰かに打ち明けてしまいたい。ただ、そう思った。
次の朝。スマホのアラームが鳴り、いつもより1時間早い朝を知らせる。ベッドから体を起こし、学校へ行く支度を済ませる。時刻は午前5時。外はもう明るかった。
「おはよー..」
教室に、ゆっくりと足を踏み入れる。朝の光が差し込み、主人不在の机達が照らされていた。ただ一つを除いて。
「あら、おはよう。」
教室の廊下側、一番前の席に彼女は居た。黒髪ロング、可愛いというよりは綺麗寄りの顔立ちで、大人っぽい。ルーム長の、如月杏奈だった。
「貴方がこんなに早く来るなんて、どうしたの?」
猫のような眼差しが私を見つめる。息を深く吸い込み、私は口を開いた。
「如月さんと、話すために。」
少し、驚いたような顔をする彼女。だが、直ぐに彼女は立ちあがり、隣の席の椅子を引いた。
「とりあえず、座ったら?」
私はゆっくりと歩を進め、彼女が引いた椅子に座った。
「私と貴方、殆ど話したことがないわよね?」
「うん。」
「なのに、私に話があるの?」
「..そう。話というか、相談なんだけど..」
「相談ね..なぜ、私?」
「如月さんルーム長だし、皆んなのことよく知ってそうだから..それに..」
「それに?」
「私たち..その..あんまり話したことないし、正直な意見を言って貰えるかなって..」
「なるほどね。」
「ごめん..やっぱ迷惑だよね..」
「ううん。そんなことない。教室の問題解決は、ルーム長の最優先事項よ。」
「..ありがとう。本当に。」
「それじゃ、話を聞きましょうか。」
私は、全てを話した。吐き出すように、懺悔するように。全ての感情を、表現できる限り、彼女に話した。泣きそうになったけれど、涙は堪えた。
彼女は、如月杏奈は、それをただ静かに聞いていた。
話が終わり、教室に静寂が訪れた。彼女は再び私と目を合わせ、口を開いた。
「貴方がほんの少し勇気を出して彼に話しかけていれば、こうはならなかったのにね。」
本当に..そうだと思う。私は、怖かったんだ。
「貴方は、彼にただ見て欲しかったと言った。そのために他の人間の好意を利用した。」
「そう..合ってる。」
「そして貴方はきっと潜在的に、彼からのアプローチを期待していた。貴方と真也君が別れた後に、貴方を意識した彼が話しかけてくれるかもしれないって。」
「そんなこと..」
「言ったでしょ。潜在的にって。ただ見て欲しいなんて、謙虚すぎる。そっちの方が人間らしくないわよ。
本当の自分から、目を背けないで。」
「本当の..自分..」
「そう。..確かに貴方は、客観的に見たら悪い事をした。でもね、1人の人間として、そして好きな人を想う少女としては、至って普通の行動だとも思う。」
「普通じゃない..普通じゃないよ..!」
「何度も何度もしつこくアプローチされて、嫌がらない人がいる?」
「好きな人に振り向いてほしくない人がいる?」
「過ちを、犯さない人がいる?」
「大事なのは、それを振り返り、受け入れ、どう行動していくか。そうだと思わない?」
感情の渦が、私の中で渦巻いているのがわかる。渦は深く、早く、私を引き込んでいく。私の内に潜む、闇でも、光でもない何かを見せたがっているように。
..私は、うんざりしていた。ムカついていた。真也のことを、恨んでいた。何度もしつこく告白して、私の意見など、聞いていない彼のことを。
私は、彼に見て欲しかった。でも、それだけじゃない。..きっと、彼に話しかけて欲しかった。私を意識して、好きになって欲しかった。
ただ見て欲しい、それだけで収まる思いじゃないと、深く考えればきっと分かっていた。彼への私の愛は、思っていたよりずっと..ずっと
渦の中にある、未だ広がり続ける思いを見上げ、そう実感する。不安と安堵が、私の中で共存しているのが分かる。
「多くの感情が積み重なり、辿り着いたのが貴方の行動なの。」
頬を伝う、暖かい感触。気づけば私は泣いていた。
「ねえ..私は、これからどうすればいい..?」
投稿が遅くなって申し訳ないです。頻度上げれるよう頑張ります。そして、ブクマや感想本当にありがとうございます。