目が覚めると、幼馴染が俺に抱きついていた。
「んん〜」
ふにゃふにゃした楓の声で目が覚める。感じたのは布団に包まれている感覚。寝てたのか俺.. 多分楓も寝てしまったんだろう。あれ、そういえば楓は何処に...
「ん〜」
再び楓の声。さっきは気づかないかったが、めちゃくちゃ近くから聞こえる気がする。なんだか、とてもいやな予感がしてきた。
そういえば..ここは床のはずだよな..なんで布団に包まれている感覚があるんだろう。
「ん〜」
ゆっくりと、視線を下へずらしていく。本来なら、俺の体が姿を現すはず...
いやな予感が、ちゃんと的中した。視線の先に見えたのは、頭だった。勿論頭単体ではない。その下には体があり、両手が俺に巻き付いている。布団だと思っていたのは、人間の温もりだった.
なんて事だ..
つまるところ楓は、寝ながら俺に抱きついているらしかった。
寝ぼけて抱きついたに決まってるが、本当にやめて欲しい。こんな状況で他視点に立つことがどれだけ難しいか..可能性を少しでも感じていれば100%勘違いしてしまうことだろう。
折角楓と喋れるようになったんだ。せめて友情だけは、もう二度と途切らせたくない。
とにかく、楓を俺から引き剥がさないと.. 背中に回っている手を両手で掴み...
その瞬間、楓が目を開けた。
「えっ..?」
「あ...」
楓は俺の目と、俺に掴まれている両手を交互に見ている。
これ、思ってる以上にまずい事態かもしれない。
今の俺たちの状態、見ようによっては..いや何処からどう見ても、俺が寝ていた楓の両手を掴み、自分の体に引き寄せているみたいに見えるんじゃ...
楓はまだ驚いた顔を崩していない。早急に弁解しなければ..
「ちっ..違うんだこれは!」
完全にやっているやつのセリフになってしまった。その時、再び楓の瞼が落ちた。
寝たのか..?この状況で..?
「か..楓?」
暫くの沈黙。その後、楓は目を閉じたまま喋った。
「なに...ミスター不健全さん」
「やっぱり起きてるんじゃないか。」
「...」
再び黙りこくる楓。何がしたいんだか。そういえばずっと掴んだままになってしまっている楓の手を床まで下ろし、離す。
「え?」
気づくと楓がキョトンとした顔でこっちを見ている。
「なにがえ?なの?」
「いや、だって..手..」
「だから違うんだって。あれは元々、お前が俺に寝たまま抱きついてきたから引き剥がそうとしただけ。」
「うそ...」
「ほんとう。」
「あぁ...ぁ..」
楓は座った状態のままさらに縮こまっていく。これじゃ、なんだか俺が悪いことしたみたいじゃないか。
気づくと楓は顔をあげ、今度は俺をものすごい眼光で睨みつけてきていた。
「..ばかやろう。」
可愛い罵声と共に俺に向かって繰り出される弱いパンチ。ポスっという音と共に、俺の肩に命中する。
「何がしたいんだよ。」
「..うぅ..」
本当に久々に楓のしょぼくれている顔を見た気がする。大体そういう時は俺が悪かったけど、今回に限っては俺は何も悪くない。
..それでも罪悪感が芽生えてしまう自分の心は、これからも少しだけ信用できると思う。
「..ゲームでもする?」
「する!!」
楓の顔が急にパッと明るくなる。思ったよりも単純で少し心配になる。
でもやっぱり、楓は嬉しそうな時が一番可愛い。まあよく考えたらそれは当たり前なんだけど。
俺と楓は結局夜遅くまで対戦ゲームをして眠りについてしまい、母に起こされた時には部屋の電子時計がきっかり0時を指していた。
続きます