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疎遠状態にあった幼馴染と、一緒に登校した

 朝。セットしたスマホのアラームで目を覚ます。いつもなら悪夢に余韻やなんやらで憂鬱な朝。でも今日は、何だか別の意味で夢現だった。

 楓が昨日俺の部屋に来た。それだけじゃない。これからはこの家に通うと言った。..やっぱり夢なんじゃないだろうか。

 気を紛らわすためスマホを開く。勿論何の通知も来ていない。そういえば、楓のst知らないな..当たり前だけど。

 その時、ピコンとstの通知音。ちなみにstとは

share timeの略で、みんながみんな使っているメッセージアプリだ。中学生からやっているが、未だに登録されている友達は20人もいない。

 ..まあとにかく、通知からstを開くことにする。裕志か..メッセージの内容は勿論予想できる。楓のことだ。

「どうだったんだよ」というメッセージ。寝起きで、あまり思うように動かない指を使い文を打ち込む。

「来てくれた。」

 すぐに既読がつく。多分また何か聞かれるが、面倒くさい。学校で言うことにしよう。

 俺はスマホをポケットに入れ、部屋の扉を開けた。


「おはよ。」


 着替えを済ませ飯を食い歯を磨き、今日のログボを受け取ってようやく家の玄関を潜ったところには、予想だにしないものが待ち構えていた。


「何で...お前がいるんだ..」

「今日からここに通うって言ったじゃん。」

「それは部活の後のことじゃ..?」

「勿論それもそう。でも、朝も来るよ?」

「はぁ?なんでだよ。」

「?登校でしょ?」

「まさか...一緒にってこと..?」

「?そうだよ?」

「えぇ..?」


 会話に?が増えまくり、俺の頭にも?しか浮かばなくなってくる。なんで一緒に登校..?小学校の頃を最後にこいつと学校に行ったことなんて一回もないのに。いつも過ごしていた世界が急に一変したせいで、いつも通りに思考が巡らない。


「何考えてるんだか。早く行こ。」

 手に変な感触。でも、何だかとても懐かしい。..なんだっけこれ。


「あ..あれぇ?女性経験0君も案外やるじゃぁん?」


 声の抑揚がおかしい楓。案外やるってどういうことだろう。考えているうちに、今度は手がプルプルと震え出す。なんでだろう。俺はなんにも...

 その時、俺はようやく目の前の状況を理解した。

 俺と楓は今、手を...繋いでるんだ。いや正確には、楓が俺の手を掴んでいる。

 一度冷静になった頭が、再び機能しなくなっていく..


「も..もぉむりぃ..」


 気づけば、楓の方から掴んだ手を離してしまった。楓はその後、俯いて何も言葉を発しなくなる。


「色々と..何してんだよ。」

「ご..ごめん..」


 楓が俯いたまま頭を下げる。


「別に謝る必要はないけど..てか、途中からめっちゃ手震えてたんだけど。」

「あ..ぃや..それはぁ...」

「緊張してたんだな。彼氏いんのに。」

「う..うっさい!」


 茶化したつもりだったが、結構お怒りらしい。どうせなら、もう少しだけ。


「彼氏とは繋いだことあるの?手。」


 一瞬の静寂の後、楓は顔をあげ俺に怒鳴り散らす。

「はぁっ!?そんなことあるわけないでしょ!?」

「彼氏なんだしあるわけないわけはないと思うけど..」

「とにかくないから!!もう..早く行こ!」


 そう言うと楓は学校方面へ歩いていってしまった。

 あの慌てふためきよう..やっぱりあるんじゃないのか..?

 長年の経験で培ったマイナス思考は、多分当分なくなることはないだろうと思う。


 学校に着くなり、俺たちは周りから変な目で見られ始め、クラスに入った時には大勢の人間に取り囲まれてしまった。

 まずい。非常にまずい。さらにその中から、1人のイケメン..楓の彼氏、真也が一歩足を踏み出してくる。

 ..よりまずい。


「楓。何でこんなやつと来てんだよ。」


 なかなかどすの利いた声。死を確信するが、楓は全くと言って良いほど物怖じしていなかった。肝が据わってやがる。


「別に?家が隣だから一緒に来ただけ。何か悪い?」

「当たり前だろ..俺たち付き合ってんだぞ!?」

「お試しだけどね。」

「...っとにかく!早くこっち来いって!」

 真也が楓の手を掴む。

「やめて!!」


 次の瞬間、楓は真也の手を振り払ってしまった。教室内に静寂が訪れる。真也は戸惑いと怒り半々の顔を浮かべ、立ち尽くしている。


「何だよ..急に」

「私に触れないで。そっち行くから。」


 楓は一瞬俺を見て、真也の方に歩いて行った。真也達が席に着くと、教室内からは段々会話が聞こえるようになっていった。


「朝から災難だったな。」


 席に着くなり、隣の席に座っている友人、裕志から喋りかけられる。


「まぁ..な」

「でもあの様子だと、昨日は随分と上手くいったようじゃないか。」

「まぁ...な」

「大丈夫か?」

「うん..一応。」


 なんだか、気分が悪い。 

 昨日からの目まぐるしい日常の変化で、感じたことがない様な疲労感がある。でも、それは楓と喋れた事のプラス効果でほぼプラマイゼロな気がする。

 それよりもう一つ、さっき嫌というほど感じた最も大きな問題。


「あのままじゃ楓さん、嫌われちゃうんじゃないか?」


 考えていた問題そのものを、裕志が言葉にした。


「だよな...」


 このまま俺と居るところを見せたり、彼氏にあんな態度を取ったりし続けていたら楓は彼氏だけでなく、多くの人間から嫌われることになってしまう。真也は相当人脈が広いし。俺のせいで楓の居場所が無くなるなんてことは絶対にあってはならない。(「たり」は重ねて使う)

 そう、全部俺が..


「確かに、お前のせいだな。」


 心を..読まれたのか..?


「お前が昨日、楓さんに喋りかけたことが、全ての発端であるのは間違いない。でも、それだけじゃない。

 あんまり自惚れんな。彼氏さんが何よりも嫌なのは楓さんに冷たい態度を取られることだろ。」


「俺なんかには、負けるわけがないと..」


「違うのか?」

「..違くない。」


「ま、そこまで気負う必要はないってことだ。人前でいちゃつくのはどう考えてもやめた方がいいけど。」


「いちゃついてない!!」


 なんだかんだ言って、気負うなと言ってくれるこいつは、本当にいい奴だ。

 それにしても、これからを考えなきゃいけない。今日楓が家に来たらちゃんと話し合おう。

 その後、先生に叩き起こされるまで俺は眠っていたらしかった。




 



 





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