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数年話していない幼馴染を、家に呼んでしまった.

 浜崎千弥、高校一年生。趣味はアニメに漫画、映画などなど、そういうものが浅く広くという感じ。勉強は、あまりできない。


 季節は春の終わり。時刻は午後1時2分。つまり昼飯時だ。隣の席には、今のところクラスの中で唯一腹を割って話せる友達、仲井裕志が座ってパンにかぶりついている。裕志はメガネにセンター分け、頭も顔も良くそこそこの高身長と、必然的に女子人気が高い奴だ。

 髪もろくにセットせず身長は低い方。..これ以上は卑下しないが、とにかく地味の下を行っている俺とは大違い。

 そんな奴となぜ仲良くなったかというと、2ヶ月前の席替えで席が隣になり、かつその翌日行った映画館で席が隣で、意気投合のようなものをしたからだ。すごい偶然だが、ありがたい話である。


「ねえねえ、浜崎千弥君だよね?」


 名前を呼ばれ後ろを振り向くと、そこには黒髪マッシュのイケメン、片桐真也君が立っていた。言わずもがなカーストてっぺん。なんと話した事は一回もない。そんな奴が自ら俺に声をかけてきた。かっこいい笑顔で。嫌な、嫌な予感。その時、頭の中で何かがつながる。

 そういえば..こいつは.... 彼が口を開く。


「今、暇?」

「なんというか..食事中です。」

「はは、だよね!」

「なに?」

「いやね、戸森楓っているじゃん?」

「..いるね。」

「楓から聞いたんだけど、幼馴染らしいじゃん。」

「...」


 そう。クラス一、いや学年一の美人ともてはやされている女子、戸森楓と俺は、いわゆる幼馴染だ。家が隣で家族ぐるみの付き合い。まあありがちだけど、ないがちなやつ。小学5年生くらいまでは、一緒に登下校して互いの部屋に入り浸るくらい仲が良かった。しかしそれからどんどん2人の差は開いていき...というこれもまたありがちなやつで、今は全く話していない。家を出て会っても、挨拶すらしない。疎遠になってしまったというやつだ。

 ..ついつい昔を思い出してしまった。もう、あいつのことは考えないと決めたのに。

 というか早くこいつの質問に答えないと。心なしか苛ついているみたいだ。


「そうだよ。..それがなにか?」

「ううん。それが聞きたかっただけだよ。でも幼馴染にしては全く喋ってなくない?」

「まあね。理由なんて聞くまでも無いだろ?」

「うーん..まあね。とにかく、よろしく!千弥君。」

「ああ..よろしく。」

「それじゃ。楓ともよろしくね。」


 嫌な笑みを浮かべ、奴は教室の中央、楓がいる席へと歩いていく。

 そうあいつは、....楓の彼氏だ。


 近づくな。とも、話すな。とも言われなかった。疎遠になっているんだから、当たり前だ。でも、何故かそれがたまらなくムカついた。

 何だよ。よろしくって..幼馴染とはいえ無いだろうと、可能性ナシと言われているようで。まあそりゃ無いに決まってるんだけど..でも、やっぱり嫌だ。

だって、昔は結構仲良かったんだよ?多分、お互いに親友と言えるくらいに。

 考えれば考えるほど嫌な気持ちになっていく。なぜこんなにムカつくんだろう。とにかく..本当に..

「随分とご立腹だな。」

 横からの声。気づけば裕志は昼食を食べ終わり、腹をさすっていた。


「聞いてたのか..?」

「そりゃ聞こえるだろ。隣だぞ。」

「だよな..」

「お前、楓さんのこと好きなの?」


 急に友の口から飛び出した爆弾。気づけば口調はタジタジになってしまっていた。


「いや..それは..あの、」

「好きなんだな。」

「いや..いやそんなことないって!!」


 つい大声で否定してしまう。これじゃ..認めてるようなものだ。でも本当にそんなんじゃない。自分でも、よくわからない。ただ、好きか嫌いかで言えば、好きだ。


「やめといたほうがいいぞー。彼氏いるんだし。」

「だからそんなんじゃないって..」

「あーでも..」

 急に裕志が似たりと微笑む。


「この話は女子に聞いたんだけどさ。」

「何だよ急に..モテ自慢?」

「違う違う。楓さんさ、あいつからの告白何回か断ってるらしいよ?」

「え..そうなの?」

「そうそう。でもあいつがしつこく告白し続けたらしくてさ。あいつイケメンだろ?楓の友達たちも付き合っちゃえば?とか言ってとうとう、らしいぜ?」

「そう..なんだ..」


 相変わらずの情報網である。イケメン情報網とでも言おうか。

 それよりも!..あいつがそんなしつこく楓に言い寄ってたなんて。しかも周りの女子もサポートとは..どんだけ人気があるんだ..

 ..そうか..そんなやつと楓は..

 勿論、あいつは俺よりイケメンだし、人望もある。きっと周りから羨まれるようなカップルになる。

 でも..やっぱり突っかかる。何かが。..きっと、俺だけが忘れられずにいる彼女との思い出が。


 どうすれば、どうにかなるんだろう。そんな自分でもわけがわからん考え。何をどうしたいのか、どうなって欲しいのかなんて分からない。でも、今の状態のまま月日が流れていくのは、嫌だった。


 もう一度、彼女と話したい。楓と、話してみたい。

それが俺ののたどり着いた、たった一つの結論だった。


「おい、どこ行くんだよ。」

「楓のとこ」

「は?お前何言って..」


 そうと決まれば足取りは軽く、ものの数秒で俺は楓のグループが昼食をとっている場所へ着く。教室の中なので数秒じゃないとおかしいんだけど。

 気づけば男女数人で構成された楓たちのグループは、声を発さなくなっていた。それは十中八九、普段日陰ものの人間が無言でのしのしと目の前に現れたからであろう。特に、楓とその彼氏はポカーンとした顔で俺を見つめている。

 だが、最初に口を開いたのは意外な事に楓だった。


「せっ..千弥..?どしたの...?」


 戸惑い度100%の声。それは、数年ぶりに俺に向けて楓が発した言葉だった。

 深く、息を吸い込む。


「楓。今日俺の家来れない?」

「へっ!?」


 楓だけでなく、その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべる。特に、彼氏。


「大丈夫。ただ、話したいだけだから。母さんだっているし。」


 必要ないフォローかもだけど、彼氏さんがいる手前、言っておかなければだろう。


「勿論来たくないなら良いから。じゃ、待ってる。」


 声が震えた気がした。でも、もうそんなの関係ない。引き返せない。震える足の舵を切り、元いた場所へ歩き出す。来た時よりも、足早に。


「お前、なにやってんの...」


 席に着くなり、裕志に呆れを通り越した声で話しかけられる。


「まあ、こうするしかなかった。」

「....お前、おかしくなっちゃったんだな。」

「かもしれない。」

「ま、ちょっとは慰めてやつかもわからん。頑張れよ。」

「来ない事前提かよ。」

「来ないだろ。」

「...そりゃそうか...」


 クラスの中央を見ると、楓の彼氏、真也君がなにか必死に楓に喋りかけている。楓の方はというと..その目線は彼氏ではなく、こっちを見ているようだった。

自然と、目が合っているのがわかる。そのまま、1秒、2秒と経過していく。

 瞬間、楓は顔を伏せてしまった。今度は、真也が俺を見てくる。まずい...


「終わったな。来ないよ。」

「..知ってるよ..」


 休み時間終了のチャイムが鳴る。楓はまだ、机に顔を伏せたまま。どうせ来ない。でも、物事がどう転ぶかなんて誰にも分からないものだ。

 ほんの数パーセントの微かな希望に縋りながら、時間が過ぎるのを待つ事にした。





不定期投稿になると思います。もしよろしければ応援お願いします。

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