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29話 まるで新婚旅行

「コトコちゃん! 大きくなって!」


 村の中央に用意された宴会場で、古都子はヘルミおばあさんからの熱い抱擁を受ける。

 身長は旅立った時とそこまで変わっていないから、きっと、まとう雰囲気とかが大人っぽくなったのかもしれない。

 古都子がそう考えて顔を輝かせているのが分かって、晴臣はその可愛さに悶えた。

 

「さあ、旦那さんも、たくさん食べてくれ」


 イルッカおじいさんが、晴臣の肩に手を回し、席につくよう促す。

 古都子と晴臣を囲む人が次々に入れ替わり、魔法学園での生活や王城での仕事について、話題は尽きなかった。

 晴臣はとくに、フィーロネン村にいた頃の古都子の話を聞きたがり、ヘルミおばあさんと盛り上がっていた。

 

「小さい女の子が泣きながら助けを求めてきたから、こっちも驚いたのよ。まさか異世界人なんて知らなかったからねえ」


 今は出会った当初の話をしているようだ。

 真剣に聞いている晴臣が相槌を打つ。


「通りかかって保護してくれて、ありがとうございました。おかげさまで、こうして古都子と無事に会えました」

「向こうの世界から、まとめて飛んできたんでしょう? どうしてこっちの世界で、バラバラになったのかしらね?」


 それは古都子にも晴臣にも、分からない謎だ。

 たまたま魔法学園という場所に集まらなければ、永遠にすれ違ったままだったかもしれない。

 

 歓待の宴は夜まで続き、次の日には村中の土と対話してまわり、必要な場所へ土魔法をかけ、さらに次の日にフィーロネン村を発つ。

 目指すはサイッコネン村の温泉施設だ。

 そしてそこで、ホランティ伯爵が古都子を待っているという。


「皆さん、ありがとうございました。また遊びに来ます!」

「お世話になりました」


 駅のホームまで見送りに来てくれた人たちへ、手を振る古都子と頭をさげる晴臣。

 イルッカおじいさんは大きな麦わら帽子を、ヘルミおばあさんは赤いスカーフを、遠ざかる列車が見えなくなるまで振り続けた。

 

 ◇◆◇


「温かい人たちだった」

「そうでしょ! とてもよくしてもらったの」

「村の雰囲気と人の雰囲気が、完全に合致してた」

「あはは、田畑の土も優しくて穏やかな気質なのよ」

 

 古都子は、かなり土との意思疎通に長けてきた。

 きっと次のサイッコネン村でも、銀山の気持ちを読み取れるだろう。


「楽しみだね、温泉」

「古都子は温泉、嫌いじゃなかった?」

「温泉というか、人付き合いが苦手だったの。観光地でもない町の温泉って、ご近所さんとか、顔見知りばっかりだったでしょ?」


 晴臣が思い出すような顔をして、うんうんと頷く。

 今なら平気だろうが、中学生のときは晴臣も、絡んでくる上級生が面倒くさかった。

 なぜか男子更衣室では、脱いだ瞬間から筋肉自慢が始まるのだ。

 細くも太くもなかった晴臣は、兵団に入って鍛え上げられ、もはや近衛騎士すら追随を許さない体になっている。


「古都子、一緒に入る? 家族湯もあるんだよね?」

「ど、どうしてそれを知ってるの!?」


 それは晴臣が、古都子と一緒に温泉に入りたくて、調べたせいだ。

 真っ赤になって、恥ずかしがっている古都子を愛でながらの旅は続く。


 やがて車窓から、大きな山が見え始めた。

 古都子が指さして晴臣に教える。


「あれが銀山だよ。その麓に温泉が出てるの」

「立派だな」

「今は溶けているけど、冠雪もすごいんだよ」

「冬にも来てみたいな」

 

 ふたりが近づく山を眺めていると、列車の速度が遅くなる。

 そろそろ駅に到着するのだろう。

 ホームには観光客向けの、乗合馬車があると言う。

 それに乗れば、温泉施設まで無料で運んでくれるはずだ。

 古都子と晴臣は、着替えなどが入った荷物を持って、列車を下りる準備をした。


 ◇◆◇


「賑わってるね!」


 駅前には、お土産屋が連なり、今から温泉へ行く人と、温泉から帰る人で混雑している。

 お土産は帰りに買おうと話しながら歩いていると、誰かが古都子の名前を呼んで手を振っていた。

 ひょろっとした痩躯と白髪には、見覚えがある。


「レンニ村長? どうしたんですか?」

「すれ違わなくてよかった。ちょうど領主さまが、村役場に来ているんだよ。この馬車で儂と一緒に行こう」

 

 どうやらレンニ村長は、古都子と晴臣を、迎えに来てくれたようだ。

 恐縮しながら、馬車に乗り込む。

 駅から村役場までは、ほんの数分で着いた。

 レンニ村長の案内で、初めて村役場に足を踏み入れる。


「温泉施設と宿泊施設のおかげで、サイッコネン村はかつてない盛況ぶりだ。観光業という新たな仕事に、たくさんの村民が従事して、生活が豊かになったと喜ぶ声が多い。すべて領主さまとコトコのおかげだよ、ありがとう」

「私はできることをしただけですから」

「ほっほっほ、やはり謙虚だねえ」


 導かれた先の応接室には、男装のホランティ伯爵だけでなく、なんと王兄のアンテロもいた。

 驚いている古都子と晴臣をよそに、レンニ村長はごゆっくりと言って、扉を閉めて出て行く。

 

「旅の疲れもあるところ、呼び出して悪かったね。まあ、座って話そう」


 ホランティ伯爵に誘われ、古都子と晴臣は並んでソファへ腰かける。

 真向かいにホランティ伯爵とアンテロも座った。

 古都子と晴臣の視線は、どうしてもアンテロへと向かう。

 アンテロはちらちらと、ホランティ伯爵の方を気にしているようだった。

 だがホランティ伯爵はそれに構いもしない。


「まずは、結婚おめでとう。卒業式の日に渡したかったのだが、遅くなった」


 ホランティ伯爵は懐から、大きめの巾着を取り出すと、古都子の前のテーブルへ置いた。

 その音で、中身が硬貨だと分かる。


「ホランティ伯爵、これは?」

「今まで小分けにして渡していた、古都子の特別手当の残りだよ。もう古都子も大人だから、すべて金貨にしてある」

「金貨にして、これだけの量があるんですか?」


 古都子が土魔法で手伝いをしてから、毎月のように十数枚の銀貨をもらってきた。

 それだけでも結構な金額だったと思うのだが、まだこんなにもあったのか。

 

「それだけの仕事をしてくれたんだよ、古都子は。自覚がないようだけどね」


 ふっと笑うホランティ伯爵は、そろそろ40代になるのだろうが、歳を重ねてもその美貌は衰えていない。

 隣でアンテロがうっとりしているのが、いい証拠だ。

 受け取ってくれ、と差し出されたので、古都子はありがたく頂戴する。

 新生活を始めるにあたって、いろいろ買い足したので、貯蓄が少なくなっていたのだ。


「さて、卒業式を台無しにしたアンテロが、なぜここにいるのか気になっているだろう?」


 古都子が巾着を仕舞うのを待って、ホランティ伯爵が核心に触れた。

 気になっていたが尋ねる訳にもいかなかったので、古都子は首を縦に振った。


「ふたりはアンテロの暴走を止めてくれた。だからこそ、アンテロについて知る権利があると思う」


 ホランティ伯爵の言葉に、アンテロがびくりと体を強張らせる。

 

「アンテロと私は、魔法学園で共に学んだクラスメイトだ。斜に構える癖のあるアンテロを、多くの者は王の風格があるなどと煽て、もてはやした。そのせいで、もともと鼻持ちならない性格だったアンテロはさらに歪み、横柄になっていった」


 ホランティ伯爵の隣で話を聞いているアンテロは、ぎゅっと下唇を突き出して渋い顔をしているが、反論はしないようだ。


「あるとき、弟のユリウスが魔法に目覚め、アンテロと同じ氷使いであると分かった。以前、古都子に聞かせた魔法の心得の話を、覚えているだろうか?」

「氷使いの兄弟の話ですね。人のために魔法をつかって強くなった弟と、弟にかなわなくて性格をこじらせた兄の……え、もしかして?」


 古都子の疑いの目が、アンテロに向かう。


「そうだ、その話の兄こそ、アンテロなのだ」

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