ロゼッタとリベリオ
居間の扉を少しだけ開けてみた。
ロゼッタは、まだ窓から外を見ている。
もう王太子殿下は見えていないはずなのに。
扉をそっと閉め直してから、ノックをした。
彼女の返事を待たずにそれを開けると、彼女がこちらへ振り返ったところだった。その美しい顔には、驚きの表情が浮かんでいる。
「ロゼッタ様、リベリオさんの別荘に行くんです。王太子殿下も同道されていらっしゃいますので、ご一緒にいかがですか?」
誘ってみた。
彼女にどんな罵倒をされるだろうか、なんて思いつつ。
「どういうこと?行かないわ。リベリオの別荘だなんて、冗談じゃない」
「ですが、王太子殿下とお近づきになるにはいいチャンスだと……」
「あなたたちがいるでしょう?まったく、下賤の者や野蛮人がゾロゾロといる中で、お近づきも何もあったものじゃない」
「ミシェル様もいらっしゃっているんです……」
「妹も妹よ。あんな没落貴族を気にかけるなんて。どうかしているわ」
「はい?パオロさんがどうかしたんですか?」
「とにかく、放っておいてちょうだい」
予想はしていたけど、可愛くないわよね。
そのとき、肩に手を置かれて飛び上がりそうになった。
そちらを見ると、リベリオが立っている。
「リベリオさん……」
「まったく、きみはどれだけ愚かで可愛げがないんだ」
リベリオは、わたしの横に立ってロゼッタに言葉を投げつけた。
「な、なんですって?野蛮人にそんなことを言われたくないわ」
「とにかく、いっしょに来るんだ」
彼は居間に入って行くと、ロゼッタの腕をつかんで乱暴にひっぱった。
「痛い、痛いじゃない。放しなさい」
「嫌だね。せっかくミオがわざわざ誘いに来てくれたんだ。侯爵令嬢様の心は、それに応えるくらい造作もないだろう?」
なんてこと。リベリオは嫌がるロゼッタを無理矢理ひきずりはじめた。
「リベリオ、この野蛮人っ!放しなさいってば」
「だまれ、いいからおとなしくついて来い。ミオ、行くぞ」
ギャーギャーとわめき散らすロゼッタの腕をひっぱり、リベリオは居間を出て廊下を進んで行く。
ど、どうしよう。
リベリオは、わたしが一人別荘内に戻ったことに気がついて追ってきたに違いない。
ということは、わたし、またいらないことをしてしまったのね。
おろおろしながら、彼らを追いかけた。
前を歩く二人は、ずっと言い合いを続けている。最初は、リベリオがロゼッタの腕をひっぱって無理矢理歩かせているという感じだったけど、カルデローネ家の別荘の門を出てからは、ロゼッタも渋々という感じで歩いている。
「あの……、お二人は幼馴染ですよね?小さいころから仲が悪かったんですか?」
二人の口論が永遠に続きそうだったので、雰囲気をかえられたらと思って尋ねてみた。
「小さいころ?」
「小さいころ?」
二人は、同時に足を止めてこちらをふり返った。
今日のロゼッタのドレスは、控えめな色とデザインである。いつもド派手な色合いとデザインのドレスの彼女が、今日にかぎっておとなしいドレスを着ているなんて、何かあるのかしらと勘繰ってしまう。
「彼女は、小さいころから癇癪持ちで意地悪でわがままだった」
「彼は、小さいころから泣き虫で臆病でマイペースすぎたわ」
二人は、同時に叫んだ。
「男のくせに虫やヘビが苦手で、すぐにグズグズ泣いていたのよ。その度にわたしが虫やヘビを追い払わなきゃならなかったわ」
「なにを言っているんだ?それは、きみがわたしに投げつけたからだろう?」
そしてまた、言い合いになった。
頭の中で、小さいころの二人を思い描いた。
虫やヘビをリベリオに投げつけるロゼッタ。それから、投げつけられて泣いているリベリオ。
どちらも意外だけど、まったく想像出来ないわけではない。
「木登り出来ずに泣いたでしょう?」
「バカを言うなよ。あんな高い枝にレディがのぼるなんて。きみがお転婆すぎるんだ」
「湖で魚釣りをして、釣れた魚が怖くってさわれなかったでしょう?」
「きみが見たこともないような魚を釣り上げるからだ」
次から次へと出てくる思い出話。リベリオはともかく、ロゼッタにいたっては意外すぎる少女時代である。
「うらやましいです」
思わず叫んでいた。
「その、ぼくには幼馴染がいません。兄や姉はたくさんいますが、友達と呼べる人は一人もいないのです。だから、お二人がうらやましいです」
本音である。
兄や姉たちがいたから、けっして寂しい思いはしなかった。だけど、家族や使用人以外で接する人はいなかった。
二人を見ていると、心からうらやましくなってしまう。




