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早朝稽古

 夜明け前に目が覚めてしまった。


 寝台の寝心地は最高で、横になった途端に眠ってしまっていた。


 このタイミングで目が覚めたのは、まさに奇蹟である。


 身支度を整えて乗馬服に着替えてから、馬たちの様子を見に行った。


 それから、湖まで散策してみようと思っている。


 カルデローネ家の別荘の厩舎に行くと、すでに数名の馬丁がきびきびと働いているのが見えた。


 さすがは侯爵家に雇われているだけのことはある。


 飼い葉も最高の物を準備してくれているようだ。


 馬丁たちに挨拶をし、ガイアやバルドやリコたちをなでてから、湖に行ってみた。


 朝特有のにおいがし、空気が全身にまとわりついてくる。


 歩きながら、新鮮な空気を思いっきり吸い、吐き出してみた。


 体中に溜まっている悪い何かが出て行く気がする。


 湖に近付くにつれ、叫びというか怒鳴り声というか、複数人の声がすることに気がついた。


 木々の間に湖が見え隠れし、それが眼前にパッとひろがった頃には、夜が明けていた。


 以前遠乗りで出かけた山の方角を見ると、朝の陽の光で輝いている。それは、湖面も同様である。キラキラとしている。


 そこでやっと、砂浜に人がいることに気がついた。


 エドモンドとリベリオとモレノ、それから近衛隊の隊長オレステと二人の近衛兵である。


 六人とも上半身裸で、皇都から帯剣せずに持参している剣を握っている。


 筋肉質な上半身に、朝陽の光を受けて無数の汗がきらめいている。

 エドモンドだけは、右腕にまだ包帯を巻いている


「おはようございます」


 そちらに向かいながら挨拶をすると、六人がいっせいに挨拶を返して来た。


「熱心ですね」


 そう言わずにはいられない。


「ああ。近衛隊われわれは、練習を怠ることはないのだが、実戦となるとそうそう機会がない。まぁ、それにこしたことはないんだがね。いくら練習で相手を倒せても、それが実戦で通用するかというとそれはまったく異なる。そこが軍人とわれわれの違いなんだ。こういう機会はなかなかないからね。殿下の護衛に二人残し、こうして指南をしてもらっているというわけだ」


 オレステの説明に、なるほどと納得してしまった。


「ミオ、きみもやるかい?」

「リベリオさん、なんの冗談ですか?」


 リベリオがからかってきた。


「冗談ではないさ。剣を握ったこと、あるんじゃないのかい?」

「まさか」


 本当はある。


 控えめに言ってもお転婆というよりかは男の子そのものだったわたしは、っていまもだけど、とにかく、小さいころからお姉様たちよりお兄様たちの真似をするのが大好きだった。だから、お人形さんやぬいぐるみより剣や乗馬を好んだ。


 王族と言えど、ある程度の剣や武術の素養は必要である。いざというとき、自分の身くらいは守れるよう剣などを学んでいる。わたしは、いっとき剣の鍛錬にドはまりした。


 どうせ末っ子である。政略結婚でどこかの国か国内の有力貴族に嫁がされる。正直なところ、わたしにとってそういう人生はつまらなく感じられる。それだったら、剣を片手に勇者とか傭兵とかもまってもいい。とにかく、異国をまわって修行や腕試しをしてみたい。そんなことをかんがえていた。


 だけど、ミオ・マッフェイはちがう。

 剣などとは無縁の世界に住む人間である。


 だから、リベリオに嘘をついた。


「剣なんて、握ったことありません」


 すると、リベリオが顔を近づけてきた。メガネの向こうにある瞳は、わたしのそれをとらえてはなさない。


「じゃあ、なぜ剣タコがあるんだろうな?」


 彼はわたしの耳にささやくと、さっとはなれてしまった。


 そのささやきではじめて、左手にタコが残っていることを思いだした。


 複数あるそれらは、ペンを握って出来るものではない。


「ごめんごめん、冗談だ。だが、使い方を知っていて損にはならないだろう?ほら、この前のようにどこかの狂人がベルトランド様に迫って来る可能性がある。側近のきみが身をていしてベルトランド様を守れば、きみは死んでしまうかもしれない。だが、素養があれば剣がなくても何らかの対処でもって危険を回避出来るかもしれない」


 リベリオは、わたしを見つめたまま言った。


 彼の意図することがわからない。


「リベリオ、彼に剣は必要ない。彼に暴力をふるわせたくないんだ。兄上も同様に思っているだろう」

「エドモンド様。今後、宰相やバラド将軍たちがどう出てくるかわかりません。もしかすると、この前のようなことを平気で仕掛けてくるかもしれないのです。そうなれば、ミオにしろパオロにしろ暴力に対処しなければならない機会があるかもしれない。つねにあなたが側にいるわけではないのですから。彼らが狙うのは、ベルトランド様だけではない。あなたやモレノ、わたしなども含め、皇太子殿下派すべてが危険にさらされてしまう。近衛隊も、皇族を守る義務はあっても、その側近までは守る義務はないのです」


 リベリオは、そういっきに言いきってから溜息をついた。


 もしかして、彼の耳に宰相派が皇太子殿下派わたしたちを狙っているような情報でも入っているのだろうか。





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