カルデローネ家の別荘
カルデローネ家の別荘の使用人たちは、全員そろって出迎えてくれた。
カルデローネ家の別荘は、控えめに言っても大きい。皇都にある屋敷がどれほどの大きさかはわからないけれど、そんなにかわらないのかもしれない。
自慢じゃないけれど、わたしたち王家の別荘よりずっと大きい。
さすがはソルダーニ皇国の侯爵家だわ。
「ようこそお越しくださいました。心より歓迎いたします」
もちろん、招待主であるミシェルも出迎えてくれた。
この日のミシェルは顔色がよく、この前の劇場で会ったときよりずっと元気そうにうかがえる。
「お招きありがとう。厚かましくも、大人数でおしかけてしまった」
「皇太子殿下、ご挨拶申し上げます」
彼女は控えめなドレスの裾を少しだけ上げ、皇太子殿下に挨拶をした。
「ミシェル嬢、お元気そうでなによりです」
まだ皇太子殿下の挨拶の途中で、パオロが口をはさんだ。
パオロって、こんなにせっかちだったかしら?
いつも冷静で物静かな彼が、ずいぶんと積極的になっている。
「殿下」
そのとき、エントランスの奥にある豪壮な階段上にロゼッタが現れた。
ミシェルと違い、趣味の悪い派手なドレスに身を包んでいる。
彼女は、小走りに階段を駆け下りてきた。
『カツンカツン』
高いヒールが段を踏んで奏でる甲高い音が、エントランス中に響き渡る。
そっとリベリオの様子をうかがうと、意外にもメガネの下にある目がやさしく感じられる。
「殿下、ようこそお越しくださいました」
彼女もまた、ドレスの裾を上げて挨拶をした。それから、皇太子殿下に近付いて自分の腕を皇太子殿下のそれに絡めた。
「さあ、みなさん。客間にご案内いたします」
ミシェルが言うと、すぐに侯爵家の使用人たちが荷物を運ぶために動きだした。
「い、いえ。自分で持ちます」
アマンダたちも例外ではない。
使用人たちが荷物を持とうと手を差しだすと、彼女たちは自分の荷物を抱きしめ拒否をした。
そこから、「運びます」だの「自分で持ちます」の応酬がはじまってしまった。
「だったら、ぼくも自分で持ちます」
「もちろん、わたしも」
わたしとサンドロも、恐縮してしまう。
「だったら、わたしも」
「わたしもだ」
「わたしも」
つづいてリベリオとモレノとパオロが言い、馬車からエントランスに運び込まれている自分の荷物を持ち上げた。
「わたしもだ」
「もちろん、わたしも」
さらには、皇太子殿下とエドモンドまで……。
彼らもまた、自分の荷物を取りに行こうとしている。
アマンダとセリアとクロエは当惑している。
そして彼女たちは、自分たちが荷物を運んでもらわないと、皇太子殿下とエドモンドに自分で運ばせることになるのだと気がついたみたい。
「で、では、お願いいたします」
三人はペコペコとお辞儀をしつつ、侯爵家の使用人たちに荷物を託した。
案内された部屋は、天蓋付きの寝台のある豪華な部屋である。
全員が同じような部屋なのだとすれば、客間がどれだけあるの、と問いたくなる。
この屋敷じたい、かなりの歴史を経ている感じがする。
現在のカルデローネ家が衰退していようといまいと、歴史と栄光を背負っていることにかわりはない。
この名家を潰したくない、守りたい……。
そう願い、行動しているロゼッタの気持ちはよくわかる。
彼女の態度もああならざるを得ないのかもしれない。
兄や弟がいないからこそ、彼女も必死になっているのである。
でも、馬丁をいびるのは理解に苦しむんだけど。
ほかの婚約者候補とか、ライバルになる可能性があるのなら話は別だけど。
そもそも、わたしは一応男性だから、皇太子殿下とそんな関係になるわけないのに……。
それはともかく、こんな部屋ですごさせてもらっては罰が当たりそうだわ。
わたしでこんなだから、アマンダたちはもっと恐縮しているんじゃないかしら?
いろんな意味で心配をしてしまう。
だから、気になったので彼女たちの様子を見に行くことにした。
アマンダは、落ち着きなく室内をウロウロしている。
セリアは、自分を担当してくれるメイドと口論している。
内容は、自分のことは自分でする、しないである。
そしてクロエは、じっとしているのが耐えられないのかピカピカの室内を拭いて回っている。しかも、ちゃんと自分用の布巾を持って来ているところが、プロ意識が高すぎてびっくりである。
ちょうどリベリオがやって来たので、二人で彼女たちをなだめなければならなかった。




