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「狂戦士」と彼の馬

「そういえば、若き将軍はどうしたというのだ?なにやら昨夜事件があって、重篤なケガを負ったとかなんとか、そのような噂が兵卒たちの間であるようだが」


 バラド将軍がニヤニヤ顔で尋ねてきた。


 いえいえ、将軍。そういうことは、笑いながら尋ねることではないですよね?


「もしかして、その侵入者にでもやられたのか?」


 将軍の弟の参謀もまた、可笑しさを隠すことが出来ないらしい。


 めちゃくちゃ笑顔なんですけど……。


「それで、侵入者とやらは捕まえたのか?」


 宰相は、露骨には表情に出してはいない。だけど、目が笑っている。


「もちろんです。ですが、何者かに雇われた悪党ですので口を割りません。憲兵に引き渡していますが、連中もプロです。依頼人の名を告げることはないでしょう。というよりかは、仲介者を通しているでしょうから、依頼人がだれかもわかってはいないでしょう」


 宰相は、モレノの報告に一つうなずいた。


「物騒なことだ。わたしたちも気をつけたほうがよさそうだ。なぁ、将軍?」

「そうですな、宰相。剣の達人のエドモンドが刺されるくらいだ。わたしたちも気をつけるにこしたことはない」


 将軍がそう言った瞬間、皇太子殿下とリベリオがそうとわからない程度に視線を交わした。


『エドモンドが刺されるくらいだ』


 エドモンドが重篤なケガを負ったという噂は、わざと流した。しかし、どのようにしてケガを負ったかまでは流してはいない。


 ナイフで刺されたのか、剣で斬られたのか、殴られたのか蹴られたのか等、彼にケガを負わせる方法はいくらでもある。


 それなのに、バラド将軍はなんの躊躇もなく『刺されるくらいだ』と言いきった。


 彼は、わざと逃がした悪党の報告をきいたに違いない。


 やはり、あの悪党たちはバラド将軍たちが雇ったのだ。


 ただ、宰相も知っているのかどうかまではわからないけど。


 そのタイミングで、真っ裸事件のブノワが駆けてきてリベリオに耳打ちをした。


「殿下、どうやら逃げた一人と仲介者を捕まえたようです。憲兵に引き渡すため、移動中ということです。ただ、捕まえた場所からだと皇宮の森を通過するしかないようで、尋問開始に時間がかかるかもしれないということです」


 リベリオの報告に、皇太子殿下は一つうなずいた。


「かならずや吐かせるよう、憲兵隊に厳命してくれ」

「ブノワ、いまのをきいたな?殿下の厳命だ。何としてでも吐かせるよう、伝えてくれ」

「参謀閣下、かならずや」


 ブノワは、皇太子殿下や宰相たちに敬礼してから駆け去った。


 その瞬間、バラド参謀が近くに立っている士官に目線で指示を送ったのを見逃さなかった。


 そのとき、一頭の馬が連れてこられた。


 いいえ、逆ね。一頭の馬が、調教師二人を引きずるようにしてやってきた。


「くそっ!また薬物だ」


 師匠が隣でつぶやいた。


 なんてこと……。


 その馬は、体中の血管が浮き出ているほど興奮している。いまにも暴れだしそうなのを、大の男二人でかろうじておさえている。


 飼葉や水に薬物を混ぜて与えたにちがいない。


 ひどすぎる。


 師匠からきいた通り、常日頃これだけ興奮するほどの量の薬物を与えられているのなら、心臓に負担がかかるはずだわ。


 それでなくっても、馬は心臓や脚に負担がかかる。

 そこに薬物だなんて、死ねと言っているようなものである。


 心臓が止まるのが早いか、興奮して脚の骨を折るのが早いか、どちらにしても早死には免れない。


「遅いぞっ!」

「閣下、申し訳ございません。なかなか言うことをきかないもので。おい、こらっ!おとなしくしろ」


 バラド三兄弟の末弟、つまりわたしの今日のライバルがイライラしたように叫ぶと、調教師の一人が言い訳をした。


 っていうか、末弟の声をはじめてきいたけど、女性よりも甲高い声で驚いてしまった。


「狂戦士」というあだ名には似つかわしくない声よね。


「乗るぞっ」


 彼が告げるも、彼の馬はますます暴れだした。


 多くの人間が起こすざわめきや音に驚き、怯えているのかもしれない。


 軍馬だから、人間ひとや音には慣れているはずなのに、薬物でわからなくなっている。


「ほら、おとなしくしろ」

「こらっ、言うことをきけっ」


 調教師たちは、あろうことか鞭で叩きはじめた。


 体のどこかしこを見境なくである。


「ブルルルルル」


 わたしのすぐ横で、バルドが悲し気に鼻を鳴らした。


 その彼の鼻息が、わたしの伸びてきた赤毛を舞い上げた。

 その瞬間、調教師たちをぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。


「あいつら……」


 師匠も同様である。


 二人して駆けだしそうになった。


 そのわたしたちの前に、モレノがさりげなく立ちはだかった。


「いまは、どうか」


 それだけ言った彼の表情もまた、悲し気にゆがんでいる。


 師匠もわたしも、振り上げそうになった拳を握りしめるだけで我慢するしかない。


 いまのところは……。









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