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わたしが気絶している間のこと

「さすがはミオだ。場を和ませてくれる達人だな」

「ああ、たしかに。彼の腹の虫は、緊張感や不安をいっきに吹き飛ばしてくれる」

「いいや。それどころか、そんな思いを抱いているのがバカバカしくなってくる」


 リベリオとパオロと師匠が続けて言い、同時に大笑いをはじめた。


「そ、そんなぁ……」


 情けなさが倍増してしまう。


 わたしの顔は、「トホホ」って感じになっていることでしょう。


 その顔を見られてしまい、さらに大笑いされてしまった。


 皇太子殿下とエドモンドも笑っている。


 だけど、エドモンドは傷が痛むのね。笑いながら眉をひそめている。


 それに気がついたのは、わたしだけではない。


 皇太子殿下も気がついたみたい。


 皇太子殿下は気遣わし気な表情でエドモンドを見、視線が合うとエドモンドかれの右腕に手を伸ばして包帯の上をやさしくなでた。


『大丈夫だから』


 エドモンドは、皇太子殿下に口の形だけでそう伝えた。


 やはり、二人は仲のいい兄弟よね。



 師匠が食事の準備をしてくれている間に、モレノがやって来た。


「雇われ悪党で間違いありません。連中が口を割ることはないでしょう。残らず憲兵に引き渡しました。それから、ブノワとカミーユの小隊が、噂をばらまいて来ました。うまくひっかっかってくれればいいのですが」


 モレノの報告が終わると、リベリオが教えてくれた。


 わたしは、厩舎でエドモンドの血を見て気絶してしまった。だけど、エドモンド自身はその血を利用し、さも大ケガを負ったかのように見せかけるためにその場に倒れたふりをした。


 厩舎に突入してきたのは、わたしたちの異変に気がついた護衛兵たちである。


 彼らは森にいた不審者を追ったけど、すぐにそれが囮だということに気がついてすぐに戻ってきた。


 エドモンドは、護衛兵が突入する準備を整える時間稼ぎをした。護衛兵たちは、うまく突入出来たわけである。


 誤算は、やはりわたしのドジすぎたことだったとか。


 それはともかく、重傷を負ったかのように倒れたエドモンドを見た護衛兵の隊長は、それが演技だとすぐに気がついた。


 悪役たちを一網打尽にするように見せかけ、一人だけわざと逃したらしい。


 その際、護衛兵たちは、エドモンドがいまにも死にそうな感満載で口々に怒りの言葉を吐き散らしたとか。


 逃げた悪役は、その言葉をきいているだろう。


 その逃げた悪役は、エドモンドが深刻な状況に陥ってると勘違いしているにちがいない。


 悪役たちの今回の仕事、つまり彼らの真の目的が何だったのかはいまのところわからない。それはともかく、いずれにせよ彼らは依頼人、もしくは仲介人にエドモンドが深刻なケガを負ったとうことを報告するはずである。


 それが黒幕に伝われば、黒幕はどう思うだろう。


 厩舎に駆けつけた皇太子殿下たちは、すぐにエドモンドを母屋に運び込んだ。そして、外部から見られないよう、母屋中のカーテンを閉じたわけである。


 同時に、リベリオは真っ裸事件の際のブノワとカミーユの小隊に命じた。


 バラド三兄弟が率いる第一軍に、エドモンド重傷の噂を流すようにと命令したのである。それと、そのことで騎手、つまりわたしが動揺し、臆病風をふかせている。だから、明日の勝負はまともに馬を走らせられないんじゃないか、と。


 真っ裸事件のブノワとカミーユは、戦場で戦うだけでなく、スパイとして情報の収集をしたり工作をしたりもする、有能な兵士らしいと知って驚いてしまった。


 わたしが彼らの官舎を訪れた際、ブノワかれがわたしに向かって真っ裸で走ってきたことは、わたしのいままでの人生とこれからの人生をあわせても、衝撃的な出来事として五本の指の中に数えられる案件である。そんな彼らが優秀な兵士だというから、ただ単純にびっくりしてしまう。


「連中は、これでこちら側に細工をするようなことはないだろう。それどころか、単純馬鹿な三兄弟のことだ。ミオのことを、よりいっそうなめてかかる」


 リベリオの推測に、心からホッとした。


 バルドに何かされたら、彼がかわいそうすぎる。

 わたしだったら言葉が喋れるからどうにでもなるけど、彼はそれが出来ない。もしも彼が何かされても、彼はそれを訴えることが出来ない。


 それに、これ以上だれも傷ついて欲しくない。


 それにしても、エドモンドのとっさの機転もそうだけど、護衛兵たちの機転もさすがだわ。


 エドモンド軍のすごさをあらためて思い知った。




 たった数時間ほどの出来事なのに、ずいぶんと長い一夜に感じられる。


 エドモンドは、しばらくの間母屋から出ることは出来ない。結局、母屋に泊ることになった。




 食事が出来たと、師匠が呼びに来てくれた。


 みんなで食べることになった。


 みんな、わたしのお腹の虫の騒ぎっぷりを目の当たりして空腹を覚えたらしい。






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