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諭され、仲直り

「見損なったぞ、エドモンド。おまえがそこまで独善的で自意識過剰だったとはな」


 皇太子殿下の怒りの矛先がさっぱりわからない。

 でも、わたしのせいで、わたしがしでかしたことで、エドモンドが責められていることだけははっきりしている。


 わたしは、またしても仲のいい兄弟に不要なケンカをさせてしまっている。


「二人とも、いったいどうしたというんだ?どうかしているぞ」


 師匠は、さらに混乱している。おろおろしながらも仲裁しようとしているが、皇太子殿下もエドモンドも、師匠の言葉は耳に入っていない。それどころか、姿も見えていないようである。


「殿下、お願いです。ぼくが悪いのです。エドモンド様は、ぼくの命を救って下さいました。ケガまでされて、です。エドモンド様に罰をというのでしたら、まずはぼくを罰してください」


 なりふり構わず、とはこのことだわ。


 なんとしてでもエドモンドをどうにかしなければ。皇太子殿下と彼を仲直りさせなければ。


「ミオ、わたしとエドモンドの問題だ。きみはだまっていてくれ……」

「だまりません。殿下とエドモンド様の問題ではありません。ぼくだけの問題です」


 気がつけば、ずいぶんと興奮していた。


 後になって思いだしたけど、このとき、彼らがわたしが女性だと気がついているということをすっかり忘れてしまっていた。


 それを、「ぼく」を連発して男性のふりをし続けていた。


 彼らからすれば、さぞかし滑稽だったにちがいない。


 とにかく、二人にケンカをしてもらいたくない。仲のいい兄弟であってほしい。わたしのことで責めたり責められたり、などということはやめてほしい。


「ミオ。エドモンドの罪は、きみ自身を危険にさらし、不安や恐怖を抱かせたことだ」


 冷静で落ち着き払った皇太子殿下の声をきいている内に、わたしはじょじょに落ち着きを取り戻しつつある。


「ぼくは、殿下の側近です。不測の事態にでもなれば、ぼくが殿下の盾にならなければならないのです。エドモンド様も同様です。ぼくがエドモンド様に守ってもらうのではなく、ぼくがエドモンド様を守らなければならないのです。申し訳ありません。ぼくには、その覚悟が出来ていなかった。だから、今回のような騒ぎを起こしてしまったのです」


 正直なところ、自分でも何を言っているかわからない。とにかく、エドモンドに責任をとらせてはならない。それだけしか頭にない。

 

「殿下、殿下の負けです」


 そのとき、部屋にパオロとリベリオが入って来た。


 どうやら、師匠が二人を呼びに行ってくれたみたい。


「負け、というのはおかしかったですね。閣下の将軍という地位を忘れた無鉄砲ぶりに関しては、パオロとモレノとわたしとでたっぷり言いきかせました。だいいち、ご自身の側近が襲われたことで閣下を更迭でもされてごらんなさい。宰相派の思うつぼです。ソルダーニ皇国軍は、バラド三兄弟の私物と化してしまいます」


 リベリオが静かに諭すと、皇太子殿下はバツが悪そうに視線を床に落とした。


「お二人は、協力しあわなければなりません。もともと仲の良い兄弟なのですから、こんなささいなことでもめる必要はありません。ミオは無事だった。閣下の傷はたいしたことがない。二人のお蔭で、連中を罠にはることが出来るかもしれません。閣下の機転で、うまくいけばバラド三兄弟だけでなく宰相を窮地に追い込むことが出来るかもしれないのです。それでもなお、殿下は閣下を責めるのですか?」


 パオロもまた、静かに語りかける。


 っていうか、いまのパオロの話の後半部分はどういうことなのかしら?


「殿下……」


 リベリオとパオロの助けを得て、もう一度皇太子殿下に訴えようとした。


「エドモンド、悪かった」


 いままさに口を開きかけたとき、皇太子殿下がぼそりとつぶやいた。


 それこそ口の中でぼそぼそと言ったような感じだったので、もう少しできき逃してしまうところだった。


「カッときたら見境がなくなるのは、おまえもわたしもおなじようだ」

「ええ、兄上。わたしたちは、実の兄弟ですから」


 エドモンドが応じてはじめて、皇太子殿下は床から視線を上げてエドモンドとそれを合わせた。


 よかった……。


 どうにか仲直りしてくれたみたい。


 これで、エドモンドが何らかの責任を問われることはないみたい。


 ホッとした。心からホッとした。


『グルルルルル』


 なんてことなの!


 またしても、お腹の虫が騒ぎはじめたじゃない。


 お腹の虫は、どうして空気を読んでくれないのよ。


 まったくもうっ!情けなさすぎるわ。






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